がんちゃん

ノーカントリーのがんちゃんのレビュー・感想・評価

ノーカントリー(2007年製作の映画)
4.5
おかっぱ頭の殺し屋が地の果てまで追ってくる『ターミネーター』の続編。少なくともジェネシスよりは続編。

【原作に忠実なストーリー】
コーエン兄弟が「原作あり」を手がけるのはこれが初。コーマック・マッカーシー著「血と暴力の国」にほぼ忠実なストーリー。
なのでコーエン兄弟作品にありがちな「登場人物が牛乳を飲んだからこれはユダヤ教のメタファーだ!」とかいちいち深読みしなくてOK。

【主人公は昔のヒーローの象徴】
舞台はメキシコ国境付近の田舎町で、ルウェリン・モスという男が偶然見つけたマフィアの金を持ち逃げするところから始まる。チャールズ・ブロンソンばりに泥臭い風体の男で、実はランボー顔負けの英雄であったことも段々と分かってくる。

事件を捜査するベル保安官には安定のトミー・リー・ジョーンズ。逃走者がハリソン・フォードもしくはウェズリー・スナイプスだったら問題なく逮捕できそうな洞察力を見せつける。

そんな70s 80s 90sのヒーロー補正があれば大抵の映画なら悪党をなぎ倒してハッピーエンド確定なはずが、チートな主人公でさえ手に余る、それが現代の悪の恐ろしさである。


【アントン・シガーとは何者か】
「バスンッ!」
おっとここで黒づくめの変態がドアを破って侵入してきたー!
足音を立てないように裸足だー!

奴こそはアントン・シガー。
(原作名:アントン・シュガー)
本作の主人公はこの男である。

ノリのきいたデニム、命を懸けたコイントス、家畜屠殺用スタンガンと極太サイレンサー付ショットガンを両手に装備(こういうガンダムの敵いるよね)…これらは全て原作に描かれている。

そんな彼がアカデミー助演男優賞ばりの悪役キャラクターに昇華されたのは「スペインの顔芸」ことハビエル・バルデムのおかげだろう。
なんなんですかこの人は。

【アントン・シガーは悪の象徴】
最近の悪役キャラのトレンドといえば「人を殺す前に説教しがち」である。
『ダークナイト』のジョーカー。
『ハンニバル』のレクター博士。
このそうそうたる悪の系譜に本作のアントン・シガーも堂々と肩を並べられる強烈な説教キャラである。
これら洋画における説教系悪役はもはや人間ではなく、「純粋な悪(悪魔)」の象徴だと思っていい。

というのも近頃、理解不能な暴力が増えている気がしないか?
原作者コーマック・マッカーシーが脚本を書いた『悪の法則』もそんな映画で、麻薬組織という実態の掴めない悪のシステム(法則)が襲いかかってくるのだ。

別にアメリカやメキシコに限ったことじゃない。僕らの住む街のすぐそばにも得体の知れない闇が広がっていて、一度その深淵を覗いてしまうと傍観者ではいられなくなってしまう。

それらはもはや人間の仕業とは思えない。
じゃあ何?悪魔?でも悪魔なんて実際見たこともないので何をどう気をつければいいのか分からないよ!

だからこそ僕らには神話、聖書、小説、映画というメディアがあって、【悪】について分かりやすくお説教してくれる【悪役】が必要なのだ。

ありがとうシガー。
もう欲張ったりしません。
マフィアの金を持ち逃げする際はトランスポンダーに注意します。
(こいつ学んでねぇ…!)
がんちゃん

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