これは面白い。自分がいかに“ハリウッド的”な展開や演出に慣れ切ってしまっているか認識させられた。
観進めていく中で、「このあとこうなるのかな?」と思わされる展開がいくつかある。冒頭では自転車をキーアイテムに少しファンタジーなストーリーに進んでいくかと思わされたし、オットーたちの登場シーン以降は彼らのチームが特技を活かして活躍する痛快なクライムアクションになるかもと感じた。電車事故からは作品全体が陰鬱でシリアスになるかもしれないとも危惧した。でもそれらは、北欧らしい(のか?)ユーモアでことごとく裏切られた。
いつもと違う風貌だけど不器用おじさんであるのは変わらないマッツ・ミケルセンと数学者やハッカーからなるオットーたちのチームは相性がいいやら悪いやら。どっちがどっちを巻き込んでいるのか、とにかく予想外の方向へ進んでいく。全員空気が読めないし、キレるポイントが謎。
しかし、マッツとそれ以外のバランスが絶妙なことに気づく。すぐ殴ったり殺したりしがちなマッツだけど、周りのとぼけた反応には漫才に近い笑いがあった。
それになんと言ってもマッツの「ダサクリスマスセーター」姿が拝める。本場デンマークらしく、無駄にクオリティが高いダサセーターが笑いを誘う。本国では2020年の11月に公開されたらしい。クリスマスに観たかった。なぜ日本では1月末に公開したのか……。
結末には無常感が漂うけど、伝えたいテーマがあるからこそ作品としての綺麗さを求めず、ここまで型破りな一作になったんだなと。
余談だが、この映画の鑑賞体験を共有した新宿武蔵野館の観客たち、今までで一番「鑑賞力」が高い気がした。何度かこの劇場には来ているし、別の劇場含め「観客のリアクション」が映画体験の一部になることはこれまでも感じてきた。でも今回の観客の笑い方は、「自分は楽しんでる!」「この笑い声をみんなに聞かせよう」という意志を感じた。「ブラボー」「玉屋」「アンコール」のような、マナーに近いカルチャーを感じた。