horahuki

四谷怪談のhorahukiのレビュー・感想・評価

四谷怪談(1965年製作の映画)
3.9
負けやしねぇ!
首が飛んでも動いてみせる!

8月は心霊⑥

お盆はやっぱり四谷怪談で!日本の怪談の中でも、四谷怪談は怪猫まではいかないながらも相当な作品数を誇る一大ジャンル。ただ戦前のものはほぼ現存してないという悲惨な状況が何より悲しい…😭

有名な中川信夫監督『東海道四谷怪談』とは展開がかなり異なり、一度くっついたお岩さんと伊右衛門は訳ありで別々に暮らしてるところから映画が始まる。ここはむしろ鶴屋南北のものを下敷きにしているからで、中川監督版が大きく改変を加えてるからなんだけど、メフィストフェレスな役割を果たす直弼によって悪に引き摺り込まれていく中川版よりも伊右衛門自身の悪党っぷりが浮き彫りになる結果になっていて面白かった。

木下恵介版も中川信夫版も伊右衛門を非常に人間臭く描いていて、単なる悪党ではなく伊右衛門の善の部分を強く感じさせ、その狭間で思い悩み続ける姿にドラマが生まれてたんだけど、本作は浪人となり落ちぶれた伊右衛門が士官しようともがき続ける愚直な姿を描いており、墜ちた者がなり振り構わずのし上がろうとする裏側で犠牲となる人々の恨みが伊右衛門自身の罪悪感の表出として彼に試練を課すような描き方をしている。

罪悪感の表出としての幽霊が彼の中で自問自答の契機となり、自分の中で膨れ上がった悪の感情を恐れ、呑み込まれ、ついには破滅する先の作品の伊右衛門像とは異なり、纏わり付き足を引っ張ろうとする自身の中の罪悪感を問答無用で切り捨てることで心的平静を保ち、強引に前に突き進もうとしているように映る。まさに出世の鬼!彼の行動は芽生える罪の自覚(迷い)を心の中に押し込めようとする戦い。そうでもしなければ、墜ちた者が再浮上など出来るはずもなく、社会システムの無慈悲さをより際立たせる結果となっている。この伊右衛門像の違いが本作の見どころのひとつだと思う。

ただ、直弼側のエピソードにもかなりの時間を割くことで野暮ったくなってしまっているのは残念。それでも伊右衛門にとってのお岩さん、直弼にとっての与茂七がそれぞれ怪談的な幽霊としての性質を備えつつも、出世の鬼としての伊右衛門とお袖への純粋な愛情のみで行動する直弼サイドの結末を対比的に描くことで、それぞれに迎える破滅の意味合いが変わってくるのは面白かった。

そしてもうひとつの大きな魅力はビジュアル面。カラーであることを活かしたセット撮影での怪談的外連味が最高!リアリティとの狭間をつくような無数の傘の回転の美しさ、その美しさの中に潜む退廃的美学。『雨月物語』を思わせるような上品な幻想味もあり、そうかと思えば新東宝のような雰囲気も兼ね備えたクライマックスがとても良かった。そして刀の象徴性に全てを託したラストシーンは四谷怪談らしい滅びの美と執念に取り憑かれた伊右衛門の凄みを堪能できる素晴らしい終幕。かなり好きなやつだった!

これでお盆期間で三大怪談いけたので、明日は怪談としてもう一本上げるならコレっていうので締めようと思います👍
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