フクイヒロシ

私たちの家族のフクイヒロシのレビュー・感想・評価

私たちの家族(2021年製作の映画)
4.0
レインボーマリッジ・フィルムフェスティバルのグランプリ受賞作。

他のコンペティション候補作がフィルマークスには登録されていないので、、、
レインボーマリッジ・フィルムフェスティバル全体のレポートをここに転載させていただきます。


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レインボーマリッジ・フィルムフェスティバル (#RMFF2022)
開催日程 2022年 5月6日(金)・7日(土)
開催場所 なかの ZERO 小ホール 東京都中野区中野2丁目9-7
料金 無料

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■映画祭の概要は以下の通り(https://rainbowmarriage.jp/ より転載)

●映画祭について
世界の同性婚(結婚の平等)をテーマにした映像作品を上映
同テーマの短編映画コンペティションも同時開催!

国内で同性カップルを家族として認める「(同性)パートナーシップ制度」を導入している自治体が急速に広がっており、日本の全人口の4割以上をカバーするようになっています(2021年9月現在)。また全国で同性婚を求める裁判も起きており、いよいよ実現に向けて期待が高まりつつあります。映画を通して広く多くの方へ「結婚の平等(同性婚)」への理解と、同性婚がもたらす社会への影響を広く知ってもらうことを目的として、2022年5月に日本で初めてとなる「結婚の平等(同性婚)」をテーマにした映画祭「レインボーマリッジ・フィルムフェスティバル」(RMFF2022)並びに、短編映画コンペティションを開催いたします。


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■日本初「結婚の平等(同性婚)」をテーマにした映画祭

とのことで、テーマがかなり絞られているけど作品は集まるのだろうか、作品のレベルは保証されるのだろうか、など心配はありました。

が、その心配は杞憂でした。


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■上映作品5本

同性婚をテーマにした既存の海外映画を出品してもらって、無料上映させてもらっていました。

上映の許可だってそうそう降りないだろうし、しかも無料でって、レインボーマリッジフィルムフェスティバルがかなり好意的に受け入れられているということでしょう。



■上映されたのは以下の5本。

●第43回ベルリン国際映画祭 金熊賞受賞作の『ウエディング・バンケット』(1993)

●同性婚が法制化される前後に密着した台湾のドキュメンタリー映画『愛で家族に〜同性婚への道のり』(2020)

●アメリカ合衆国での「婚姻の平等」実現をめぐる戦いの記録『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』(2013)

●エミー賞、ゴールデングローブ賞受賞作『ウーマン ラブ ウーマン』(2020)

●米アカデミー賞4部門ノミネート、ゴールデングローブ賞 作品賞・主演女優賞受賞『キッズ・オールライト』(2012)

●グランプリを競うコンペティション部門入選作品(5本)


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上記の名作5本に加えて、グランプリを競うコンペティション部門には、日本の短編映画が5本エントリーされました。



●『夫=夫』[ 2021 / 16min / 監督:山後勝英 / 出演:とよだ恭兵、中井健勇、入江崇史 ]
辰紀と佑大は夫夫(ふうふ)として長年連れ添ってきた。そしていま、別れの時が近づいていた。ありふれたどうでもいい日常の断片がかけがえのない大切な想い出となる……。

『さまよう朝』[ 2021 / 18min / 監督:喜安●浩平 / 出演:吉田電話、鈴木睦海、葛堂里奈、高木公佑 ]
共同生活をしている二人。朝食の支度をしながら続く、たわいない会話。凡庸な時間の中、微かに変わり続ける二人の関係は、日差しの中を舞う小さな埃にも似て当て所がない。さて、ところでこの光景、“どんな二人”でも同じように甘く、淡ひに包まれて見えるだろうか。

●『手のひらのパズル』[ 2022 / 25min / 監督:黒川鮎美 / 出演:黒川鮎美、長内映里香、竹石悟朗、なだぎ武 ]
金沢で生まれ育った梨沙と匠。付き合って一年半。30歳になり、周りからも結婚を囃し立てられるようになった二人は、周りの進めで同棲をすることになる。結婚を意識するようになった二人はお互いの時間を共有していく中で、少しずつあるズレに気づいていく。そんな時に結婚の相談をしていた女友達、真子とのある出来事をきっかけに、変わっていく梨沙の想い。自分らしさとは何かー 幸せの形とはー

●『Veils』[ 2021 / 18min / 監督:なかやまえりか / 出演:なかやまえりか、相馬有紀実、横山美智代 ]
あゆみ(28)と紗香(28)は、交際5年の記念に結婚写真を撮ろうとしている。『LGBTQ対応可』のフォトサロンに問い合わせるが、届いた返答に落胆と怒りを隠せない。2人の幸せが満たされる場所はあるのか。

●『私たちの家族』[ 2021 / 25min / 監督:雨夜 / 出演:マクレディ・エリン、森田みどり、マクレディ・平良、マクレディ・光琳 ]
エリンとみどりは結婚して20年、東京で3人の子供をもつ。2018年、エリンはアメリカで性別変更を申請し、日本でも性別移行と結婚書類の変更を進めた。しかし、日本では彼女の性別変更が事実上の同性婚の容認につながるとして認められなく……。


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■コンペティション部門 全体の感想

僕はコンペティション部門の5本を観ました。5本連続だったので2時間くらいだったかな。

「たくさんの応募作の中から純粋に面白い映画5本を選んだら結果的に多様な作品になった」と審査員が仰っていたように、
作り手もゲイやレズビアン、パンセクシュアル、シスジェンダーの男性・女性と、逆に集めようと思っても難しいくらいに多様でした。

内容も、ドキュメンタリー、実験的な映画、シスジェンダーかと思っていたけどレズビアンを自認した女性、声を上げることの大事さに気づいた女性カップル、ゲイカップルの死別までを描いたものなど、こちらも多彩でした。

「こんなにも素晴らしい"結婚"をみんなもどうぞ!」ではない映画祭
この映画祭の難しいところは、「結婚という素晴らしい制度をセクシュアルマイノリティにも使わせてあげよう!」っていうノリになっちゃったら困るわけです。
「同性同士でも結婚という"普通の幸せ"を得られるように!」ってことではない。

あくまでも、現状の結婚制度からセクシュアルマイノリティが除外されてるのは人権の観点からおかしいよね というそれだけの話。

「結婚=素晴らしい」「結婚=普通の幸せ」のままだと、
コンペティションの『手のひらのパズル』に登場したお母さんが言った「結婚して子供を産むっていう普通の幸せが一番なのよ」という呪いがこの先も維持されてしまう。

結婚したい人はすりゃいいししたくない人はしなきゃいい。という前提はありつつ、「結婚の自由」「同性婚」というテーマを描いて、何かしらの感動を与える映画じゃなきゃいけない。

これはなかなか高いハードルでしたが、コンペティションの5本がホントに多様だったので、この5本揃って観ることでクリアできていたと思います。



■僕が好きなのは『さまよう朝』『Veils』


●『さまよう朝』は、同棲している男女カップルの朝の何気ない会話劇で、一旦終わったかと思うと同じ会話同じ動きを今度は女性カップルで再生し、そして次は。。というシステム。

3回同じこと繰り返すので「また同じの観るのか…」と思うんですが、だんだん会話のテンポを早めたり、多分会話も端折ってたんじゃないでしょうかね、スピードアップはしていたと思います。

「登場人物の性別を変えても印象は変わらないのではないかと思って撮影したけど、観てみたらやはり印象は変わった。でもそれでは性別によるものではなく人間一人一人違えばその分印象は変わるのではと思った」的なことを、監督が仰ってました。

僕としても、異性カップル・男性同士カップル・女性同士カップルの3パターンで会話は確かに成立はするし、大きな印象は変わらないけど、やはり3パターンそれぞれの印象は違うと思いました。

やはり性別の特性は大きくあるよなぁと思いました。
グラデーションはあるけど、その性らしさってのは現状確かにあるものとして認識していいと思いました。



●『Veils(ベール)』は、制作スタッフに当事者を入れて制作されたとのことで、制作前にはたくさんの一般のレズビアンにインタビューをされたそう。

劇中で「私たちレズは!」というセリフがあって「お、レズって言うんだ」と思いました。

レズという言葉は差別的な意図で使われることが多くなったことで使わないほうがいい言葉として認識していました。

でもインタビューをする中でなんの自虐や差別的な意図もなく自分達のことを「レズ」と言うケースが多かったことで、劇中でも使用したとのこと。

ホモやオカマなど差別的な意味合いで差別加害者が使うことで差別用語として認定されて使用が禁止されてしまっています。
当事者であっても使うことに躊躇いが生まれ、使うには少しの覚悟が毎度必要な言葉になっています。

それまで普通に当事者たちが使っていた言葉なのに、差別加害者のせいでその言葉が奪われていってしまっている。

クィアという言葉は同性愛者への侮蔑の言葉になってしまったけど、あえて当事者が自己肯定的に使うことで適切な用語になっていった、という経緯があります。
奪われた言葉は取り戻すことができるという良い例です。

自分たちの言葉を取り戻す という意味でこの『Veils(ベール)』の功績は大きくなると思います。



■グランプリは『私たちの家族』


最高賞であるグランプリは『私たちの家族』でした。

エリンとみどりというカップルのドキュメンタリーです。

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エリンとみどりは結婚して20年、東京で3人の子供をもつ。2018年、エリンはアメリカで性別変更を申請し、日本でも性別移行と結婚書類の変更を進めた。しかし、日本では彼女の性別変更が事実上の同性婚の容認につながるとして認められなく……。

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日本でも性別移行は認められています。

ただ、結婚している男性(夫)が性別移行して女性になると、女性同士が結婚していることになり、同性婚を事実上認めることになるということで、現状結婚している場合の性別移行は認められていません。

裁判は続いており、ま、時間の問題という感じですが、裁判で国と戦い続けるという手間と労力を個人が負わなきゃいけないってのは大変ですよね。。

それをやっているエリンとみどりのカップルにはものすごくエネルギーを感じます。
その分この映画自体もエネルギーに満ちているものでした。

この映画には「あの素晴らしい"結婚制度"を私たちにも感」がないんです。

どんどん遠くへ、どんどん広い未来を照射する力強い映画でした。



その作品にグランプリを与えるのだろうとドキドキしていたし、
正直まさか『私たちの家族』だとは思わなかったんですが、
レインボーマリッジフィルムフェスティバル の社会的な存在意義に制限をかけないという意志を感じる選定だと思いました。



■第2回あるのでしょうか

毎年はちょっとキツそうなので隔年か3年に一回かオリンピックと絡めるか、って感じでも続けてほしい映画祭です。

八方不美人 さんたちの司会も楽しかったですし流石こういうイベントを死ぬほどやっている方々だけあって手慣れたものでした。

とても大好きですし何度でも観たいです。

でも、司会者もね、固定するよりは、、多彩な方がね、、いろんなセクシュアリティの方がね、、きっと良いですよね。。