タカ

先生、私の隣に座っていただけませんか?のタカのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

「思っていることは口にしないと」

そう
お母さんが言うことは正しい
非難して責めて自分の思いをぶつければ良い
時折見せる物悲しげな顔
「浮気症なの?」と聞かれ口籠る反応
鬱々とした不安と疑念を押し込めるよりも
吐き出して浄化させる方が何倍もいい
でも
直接言ったところで
簡単にあしらわれるだけかも
都合よく誤魔化されるだけかも
うまく本音を聞き出せる自信がないから
自分の思いをぶつけるのが怖いから
じゃあ得意の表現方法で炙り出そう
紙の上に宿るキャラはいつだって積極的で流暢
ようこそ虚構と現実の境目へ
だって
私もあなたも同類(漫画家)でしょ

おしゃれで上品
不倫をテーマとしているのにも関わらず、ドロドロと醜い部分が直接映されることはない
普通は罵り合って自分本位な言葉で傷つけ合う平行線の泥仕合
それが今回は漫画を媒介として間接的に相手を揺さぶる
漫画と現実を濁らせていくのって今年公開で言うと『キャラクター』と同じ
両作とも劇中漫画が本格的で本当にありそうなほどにこだわってるのでマンガのコマ画とリンクしていく演出がおしゃれに見えてくる
なおかつ今作では、罵り合いになりかねない状況を漫画というアイテムを使って展開していくのが実に上品
最後にセリフ書き換えていく展開もめちゃくちゃ良いし、"先生"と呼ばれる特殊な職種の使い方もめちゃくちゃキレイで巧い
絶対好きじゃないテーマなのに引き込まれていく
面白い❗️

漫画を読んだ後の二人のリアクション
次回作の構想を打ち明けられて「だいぶ方向性違うね」と気になってしょうがなくなるところから
俊夫はずっと動揺しっぱなし
そのあたりの反応が可愛らしくさえ見える
居ても立っても居られなくなって階段ダッシュから教習所へ駆けつけるのが面白い🤣
佐和子にしても俊夫の明らかな動揺を完全に理解していて微笑んだりしている
そういう細かいところの表情が全員上手かった
コメディ調に受けとってるんだけど、ふとこれ不倫の話だよなと思い出して、俊夫のあからさまな動揺にツッコミたくなる
相手が不倫してるかもとなれば、あたふたして不安になるのになぜ自分は平気でそれをしちゃったのか
その立場になって考えるのじゃ遅すぎる

「何を見ても心が動かないんだよ」
仕事と家庭のバランス
仕事のスランプが影響して魔が差したのか?
何にしても理由にはならない
最初から許す気なんてない
でも、せめてビジネス上の関係はやり直そう
佐和子にとっての"先生"は俊夫だけ
"心を動かした"から、女房役としての役目は全う
一緒に居るのはこれで最後
「先生、私の隣に座っていただけませんか?」

考察できるラストカット
運転席に座る佐和子一人のカットがラスト
ストレートに読むなら、教習所の先生との駆け落ちに見える
でも、二人で駆け落ちしたのは漫画の世界だけなんじゃないかなと思う
免許を取るのはもともと自立することが目的
不倫されたから不倫するという復讐はなしというニュアンスの言葉
その2点から読み取ると現実は佐和子一人でどこか行ってしまったのではないかと思う
助手席をあえて映さずに運転席だけを映して、漫画世界と現実世界の浮遊感を味わせたまま終わるなんてつくづく最後まで巧い
タカ

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