レインウォッチャー

先生、私の隣に座っていただけませんか?のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.0
「恋のプログラムを狂わせないでね」。

俊夫(柄本佑)は、漫画家の妻・佐和子(黒木華)が描いた新作のネームを盗み見し、慄く。自身の不倫がはっきり描かれていたからだ。更に、自動車教習所に通う妻に芽生えたらしい恋のことも。果たしてこれは現実か、創作か…?

上記のような「水面下サスペンス」で終わりまで引っ張るのかと思いきや、それは1時間くらいでバラしてしまって、別のツイストがかかる。その後も更に…といった、それこそ車のギアのように何段階かの変調が最後の最後まで続いて、俊夫もわたしたちも引き込まれる。

数えれば片手で足りるほどの登場人物に、限られたロケーション。
とてもミニマルな環境はどこか「漫画」という閉じ(綴じ)られた世界に合っていて、これは現実で起こっていること?それとも漫画の内容?あるいは、誰かの妄想?という困惑を助長し、何重かもはっきりしない入れ子構造に放り込まれる感じは気持ちが良い。

佐和子は、母親いわく「免許取る時間に漫画読んでた方が良いって言ってた」ような人物。つまり、佐和子にとって漫画とは現実よりも上位に位置する存在なのだろう。この現実には、物事の合理性だったり夫婦生活そのもの、も含まれる。
それを考えると、結末まで迷路のように撹乱されるストーリーも、彼女が最優先で取り戻したかったもの、欲しかったものは何なのか…は見えてくるような気がする。「私の隣」は、物理的に隣でなくても実現できるのだね。

ただ、そういった「お話のおもしろさ」以上の何か、たとえば男女関係を再定義するとか、そういった深度はないといえばない。
ただでさえ限られた登場人物の中、主演二人以外は血が通っていないようにすら見えて、余白を想像してみたいという欲は起こらなかった。

それは、どこか劇中で描かれる肝心の漫画にもいえて…これ、連載になるかしら…?
担当編集者(俊夫の不倫相手でもある)の千佳(奈緒)が、「おんもしろい!」「いけますよ!」とかマンキンで言う(かわいい)からこちらもその体で見ようとはするのだけれど、なんだかケータイ漫画の広告によく出てくるような、すぐ消費されて終わる類の作品のように思えて、漫画で読んでみたい!とは思わなかったな。総じて、「これはこーゆーもの」という装置という感じ。

しかしもしかすると、この辺りも全ては佐和子の、実は俊夫以上に自分本位=漫画本位になれる、フォーカスが絞られた世界観の表れなのかも。その結果、ついに漫画と現実の境目はなくなる。
アクセルを踏んだら、あとは自信をもって走り切ること…単なる愛憎劇にはない、ちょっと爽やかな結びに後味は悪くない。