ウシュアイア

クレッシェンド 音楽の架け橋のウシュアイアのレビュー・感想・評価

3.3
世界的な指揮者の下、イスラエルとパレスチナの若手演奏家を募ってオーケストラを編成し、平和と和解のためのイベントとしてコンサートを行うというプロジェクトのお話。


泥沼の紛争が長年続くユダヤ人とパレスチナ人の問題を扱った映画ということで、この手の作品には、
①リアリティの追求のため過度にいい話でまとめないこと
②和解へ希望をもてる結末にする
ということが求められると思う。

結論から言えば①、②はとりあえず両方クリアしているようであるが、何だかもやっとさせられる。

まず、予告編では、世界的な名指揮者がユダヤ人とパレスチナ人の演奏家を集めて楽団をつくり、音楽を通じて両者が和解をしていく、という話のように見えるが、実際のところはちょっと違う。劇中の楽団員でも指摘されているが、演奏の前の思想改造セミナーのようなものが先行してしまって、「音楽を通じて和解」という雰囲気からはほど遠い印象。目的(和解の推進)と手段(コンサートの成功)が逆になっている印象。

そして、このユダヤ人とパレスチナ人の混成楽団によるコンサートの企画自体は、世界的な巨匠の発案でもなく、ドイツ人のイベントプロデューサーによるもので、当事者でない第三者が人道的な見地からパレスチナ問題和解の仲介をしようとしてのことだ。(ちなみに同じような音楽活動をやっている実在の巨匠ダニエル・バレンボイムはユダヤ人なので当事者。)若干のネタバレになるが、一応そうした善意の第三者の欺瞞のようなものは見えてくるのだが、そのこと自体が作品を自己否定につながっており、結局のところ何が言いたいんだかよくわからなかった。

ユダヤ人をめぐってはナチスドイツとの関係についても言及されているが、パレスチナ問題と絡めるのはそれはそれで話をややこしくしているようにも思えた。

楽団員同士の恋愛も描かれており、『ウエストサイドストーリー』のようにそっちをメインにした方がすっきりしたかもしれないとも思えた。

とりあえず、パレスチナ人がユダヤ人地区へ越境することの難しさ、パレスチナ人とユダヤ人の対立感情など、これが当事者たちはどう受け止めるのかは分からないが、生々しく描かれていたように思えた。
ウシュアイア

ウシュアイア