jam

テーラー 人生の仕立て屋のjamのレビュー・感想・評価

テーラー 人生の仕立て屋(2020年製作の映画)
3.9
私の実家の洋服ダンスには、ハンドメイドの紳士用スーツが数着、息を潜めていた

サラリーマンではない父のために
亡母が仕立てた物だということを聞いたのは祖父の家

そこでは黒く艶やかな足踏みミシンが
お盆と正月に遊びに来る私たち姉妹を待っていて
私が試しにペダルを踏んでみても、
その重さ故にびくともしないそれを
伯母はいとも軽やかにリズムに乗ってカタカタ鳴らしたかと思うと
あっという間に生地を縫いあげてみせた



ニコスが父から受け継いだテーラー
オーダーメイドの紳士服を作る
熟練の腕と使い慣れた道具たち
そして
着る人に対する尊敬の想いを込めて

時代の波に逆らえず
廃業の危機を乗り越えるために
ギリシャのお話だけれど、おそらく日本各地で共感できる人がいる状況
保守的に見えたニコスの最大の決断とは…



なんでも簡単に物が手に入る時代に
丁寧に採寸して手作業で仕立てる
紳士服の仕立ては特別、それを知っているからこそ
ニコスの作るウェディングドレスは格別なものだとわかる

仕事一筋、堅物に見えたニコスが
人々と触れ合い、新しい道を歩み出す
彼の作った美しいドレスを纏い
嫁ぎゆく花嫁に夢を乗せて


母の仕立てたスーツや、私たち姉妹の子供服には溢れるほどの愛情が注がれていたのだとしみじみ思う
あのカタカタというペダルの音が思い出させてくれたから
jam

jam