ダムに沈む運命にある山間の村に暮らす一家。
妻に先立たれた認知症の父(加藤嘉)と一緒に暮らす夫婦(長門裕之、樫山文枝)に中日ドラゴンズの野球帽を被った小学生の一人息子の四人暮らし。
加藤嘉の認知症の演技がなんといっても素晴らしい。眼球が本物の認知症の老人のように見える。
一体この人は俳優なのか?と思う。素人が演技をしているように見える程の演技力。
認知症のため母家を追われ離れに監禁された老人。ダムの底に沈むために故郷の村を追われる運命にある老人。
最後の抵抗とばかりに離れを逃げ出し、ドラゴンズ帽の孫を誘って川の上流へ大物の潜む秘密のポイントに行く。祖父から孫に魚釣りの仕方を教えるシーンがいい。
孫と二人で釣りに行き山の中で逝く祖父。冷たい病院のベッドで逝く訳でもなく、ダムに沈む前の慣れ親しんだ美しい山と川に囲まれて大好きな釣りをしながら最期を迎えたのに、こんなに悲しい音楽を当てることもあるまいにと思う。終末期の描き方は今とは大分違うと思う。
住み慣れた家と家族、失われて行く美しいものへの惜別の詩の一本でした。