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ふるさとのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

ふるさと(1983年製作の映画)
4.1
「揖斐川の上流部で徳山ダムの建設により、やがて湖底に沈みゆこうとしている岐阜県揖斐郡徳山村(現:揖斐郡揖斐川町)を描く。徳山村の出身で、同地で分校の教師をしていた平方浩介の著書『じいと山のコボたち』(童心社)を映画化したもの。痴呆症の老人と少年の親交を描きながら、消え行く徳山村の美しい自然を表現している。文化庁優秀映画奨励賞など多数の賞を受賞し、主演の加藤嘉がモスクワ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞した。」(Wikipedia)


内容は引用通りなのですが、
見所は、認知症の老人を演じた加藤嘉の熱演につきます。
長年の介護経験者としては、めちゃめちゃキツかった。当時まだ70歳だったのに90歳近くにみえる。家族は責められないし、でもそれやっちゃダメってのを長男やっちゃうし、何事も経験、介護は失敗の繰り返し。ようやく介護がわかった頃には…なんです😢。

まさかこういう話だったとは思わず、湖に沈む村の美しい景色と村人の優しい交流を期待していたのに。

介護経験者としては、「ファーザー」も観られずにいて、忘れていた悪夢がぶり返してきました。非常にリアルです。
介護経験者でなければ、温かい目で観られると思います。

樫山文枝がいいお嫁さんで、認知症が進む義父とそれを受け入れられずに動揺し暴言を吐く夫(長門裕之)のいさかいの間に入ります。夫も優しくしなきゃとわかっているけど実の父親の変わり果てた姿に耐えられない。夫婦二人のどちらの気持ちもわかる。誰も責められない。

「責めるべきは病だ」と当時暴力的な症状に動揺して友人宅に避難していた私に友人が言ってくれた言葉を思い出しました。

そんな家族の状況に変化が。釣りを通した少年との交流で、おじいちゃんが好転していく。それそれ、それが必要。必要とされることが必要。

美しい自然は川釣りのシーンで見られます。

自然よりも、村人の日常を記録として描きたかったんだと思います。小学校の児童同士が、立ち退きでいくらもらった、あの家は狡いと、親から聞いている話をそのままぶつけ合い、生々しいです。原作者は小学校の教員ですが、そのケンカを止めようとしません。ダムに全村が沈むことが決まってからの長い年月、村人のいさかいがずっと日常だったのを描いています。

考えてみれば、ダムに沈む村の物語に美しい話を安易に期待した私が間違っていました。都心部のための水、電力のために、いくつもの村が沈んだ事実を忘れてはいけなかった。人びとの思い出も歴史も、風習も沈んでしまった。そのおかげで日々快適に過ごせている。今も。エアコンも、スマホの充電も、電化製品の何もかも。

村には遺跡もあって太古から人が住んでいた歴史ある村。

土地が変われば風習も変わってしまいます。

いちばん驚いたのは、1983年なのに野火で火葬だったこと。斎場に行かず、焚き火のような火葬でした。衝撃だったけど、これが村の風習で伝統。祈りながら死者を送る儀式は静謐で安らかです。

卒業式の「ふるさと」斉唱が沁みます。実際の村人が参加していました。
一家族、また一家族と村から下りて行きます。1983年の映画公開後、1989年に残っていた村民が転居し、全村民の転居が終わります。2008年に徳山ダム完成。

ずっと木が切り倒される音がしていました。うめき声のよう。
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