むらむら

コーダ あいのうたのむらむらのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
5.0
※アカデミー賞獲得おめでとうございます! 納得の作品です。(2022/3/28追記)

「泣ける」って散々言われてたのに、あえなく撃沈。映画館で大号泣してしまった。

というか散々「泣ける!」って刷り込まれてたせいで、開演前のドラえもんの「ゴシゴシゴシ」(東宝系列)くらいから涙が出始めて、「NO MORE 映画泥棒」でも何故か無意味に涙を流してしまう始末。俺、パブロフの犬かよ……。

漁業に出る耳の聞こえない一家で、一人、耳が聞こえるために、通訳を務める健気な女子高校生・ルビーちゃん。

ルビーちゃんは、学校よりも恋愛よりも家族優先で、家族のために、耳の聞こえる世界との通訳をずっと続けている。

そのルビーちゃんが、歌という、家族からは全く理解できない世界への夢を持ったことから家族の関係に変化が……というストーリー。

とにかく登場人物が良い。耳が聞こえないのにヒップホップの振動が好きな豪快な父親、娘の世話を焼きすぎる心配性の母親、喧嘩っ早いけど優しい兄。実際に演じるのも、聴覚障碍者の役者さんたち。

中盤、娘の発表会を観に行って、無音の中で戸惑うシーン。父ちゃんが、娘の歌声を振動で感じるシーンは、とっても真に迫っていて、印象的。

そしてルビー役のエミリア・ジョーンズ。健気で、素直で、田舎っぽくて、最高! いますぐ家族を捨てて俺の嫁に来てくれ! と本気で思ったほど。

いやホントルビーちゃん最高で、これまでルビーといえば、「熟女の夢は夜開く」「農道ナンパ」「お婆ちゃんと一緒」「30代! 40代! 50代!」「40代! 50代! 60代! 70代!」といったハードコアな作品をリリースする熟女専門AVレーベル・ルビーのことしか思い出せなかった俺も改心させられるほど。これからはルビー=コーダで刷り込まれてしまった。

加えて、ルビーに歌を教える厳しくも優しいV先生、垢抜けないルビーのボーイフレンド(「シング・ストリート」の兄ちゃんやってた人)も好印象。出てくるキャラクター、みんな良い人すぎるやろ……陰キャで孤独な俺も仲間に入れてくれませんかね……。

音楽では、ザ・クラッシュ「I FOUGHT THE LAW」とかデヴィッド・ボウイ 「スターマン」 といった名曲の使い方も、ちゃんと意味があってて、最高でした。

確かに

・デートアプリをインスコ出来るくらいスマホ駆使してるのに、漁業で活用してないのは何で?

とか

・通訳入れてないと漁業させない、って、絶対、人権団体が黙ってない案件じゃない?
(実際に現在の連邦法では、沿岸警備隊の権限はかなり制限されている)

とか細かいツッコミはある。

でも、ルビーと家族が分かり合った上で歌われる、クライマックスの「青春の光と影(both sides now)」。

これが素晴らしい。

もうこのシーンで心のダム決壊。バスタオル必須。劇場だということを顧みず、涙ボロボロ、鼻水ジュルジュル。「急性コロナ?」と疑われてしまいそうなほど、号泣してしもた。

「both sides now」はシンガーソングライター、ジョニ・ミッチェルの手による、いまから55年前の曲。

空に浮かぶ雲、愛、人生。三章に渡る歌詞で歌われる物事に、以前とは違った側面があることを知り、自分は、雲のことも、愛のことも、人生のことも、何も分かっていなかったんだ、と気付かされる、どこか哲学的な歌詞。

「コーダ」のルビーと家族が、葛藤を通して成長する姿が、この曲の世界観と完全にシンクロしてんだよね。

原作となる映画「エール!」では違う曲が使われてるみたいだけど、もうこの曲じゃないとあり得ないくらいマッチした選曲になってる。この曲を選曲したスタッフに俺のアカデミー賞あげたい。

ジョニ・ミッチェルは現在78歳。モルジェロンズ病という奇病と脳動脈瘤を患ったことで、なかなかパフォーマンスは難しい状態みたいだけど、素晴らしいアーティストですし、長生きしてほしいです。

そのジョニ・ミッチェルらがフィーチャーされる「ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック」も5月に公開されるとのこと。こちらも楽しみにしてます。

しかしマジで号泣したわ。俺「ドラ泣き」みたいなのを信用してないタイプの人間なのだが、ドラえもんの「ゴシゴシゴシ」で泣いてたことも間違ってなかったんだ、って感じるくらいに、涙涙の2時間でした。

終演してもしばらくは、

「パトラッシュ、僕はもう泣きつかれたよ……」

って放心状態。

こんなに泣いたのは、最近では、

「エルデンリングで10000ルーン持ったまま忌み鬼マルギットに瞬殺されて全ルーンを失ったとき」

以来でした。

(おしまい)
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