ゼロ

コーダ あいのうたのゼロのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.2
家族の中でたった一人健聴者である少女は「歌うこと」を夢みた。聴こえない耳に届く最高にイカした歌声が、今日、世界の色を塗り替える。

第94回アカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演男優賞の3部門でノミネートされ、すべてで受賞を果たしている本作。正直、泣ける作品で、終盤は涙なしには観れませんでした。

物語としては、家族の中で唯一の健常者である高校生のルビー・ロッシは、家族三人の通訳となり、家業の漁業を手伝う日々を送っていた。ある日、合唱部に入り、顧問のベルナルドと出会い、歌の才能に気付き、大学を目指すのだが、親には大反対されて…というもの。

話の作りとしてはベタで、家族を選ぶか?自分の夢を選ぶのか?というものなんですが、本作は家族三人が聾者で、一人だけ健常者というのがミソです。

作中でルビーが、「家族抜きでの行動を考えたことがない」と口にしていましたが、手話ができ、通訳し、何事も献身してくれるルビーは、とても健気で良い子。そりゃ自分のことよりも家族を優先し、反抗期なんてしてたら家族が路頭に迷ってしまうのでは…と余計な責任も感じてしまうのでしょうね。

変に構えず観ることができたのは、家族の大らかな性格にありました。父と母は隙あらばセックスをしようとしているし、兄もバーで知り合った女性とセックスしているし、夕食時に兄が出会い系サイトを家族で共有していたりと、下ネタが多く、あっけらかんとした雰囲気がありました。高校生のルビーが、自分の好きな音楽であったり、意中の男の子とデートをしたくなるのは当然のことでしょう。

親が子供から卒業するというテーマを、終盤のルビーの音楽会と大学受験にぶつけていたので、涙腺が崩壊してしまいました。だって、音が聞こえない家族を呼び、自分の好きな歌を熱唱している姿を観たら、何も言えなくなってしまいます。

音楽会のシーンも聾者は音が聞こえないので、劇中で無音となり表現していました。彼ら彼女らは、世界をこんな風に見ているのかと実感し、胸が痛くなる中、その後、父がルビーに「俺のために歌ってくれ」なんて言われてしまったら、もう言葉になりません。

劇中に流れる音楽も良く、ルビー役のエミリア・ジョーンズ氏の表現力も良かった。家族と自分の夢について考えるきっかけをくれ、気持ちの良いものを観たと思わせてくれる作品でした。
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