アメリカ出身のジョン・カーニーが作った『晩春』。
周りの家族とは異なる、云ふなれば変な家族のもとに産まれた普通の子供の物語は、探せば割り合ひ見つかるもの。本作も其の典型に多分に沿うてゐるので、物語自体に目新しさは余り無い。ラストも、どうしてもご都合主義を感じてしまふ決着の仕方。有り体に申せば、プロットに其処までの魅力は無い。
けれども……やっぱりいゝんだよなぁ。兄ちゃんの苦悩もさ。母ちゃんの思ひもさ。其れから、父ちゃんの愛もさ。とにかくいゝ家族なんだよ此れが。加へて、先生も亦たいゝ人なんだよ。最初から最後まですべてが好い。ユーモアも在る。本当にいゝドラマだ。
然うして、何んたっていゝシーンが在る。
解り合へないことの苦しさよ。でも其の中で解り合はうとする美しさよ。そして娘の歌を聴かむとする父の姿よ。あゝ……俺れたちは確かに聾ではないが、果たして本当に其の人の歌を、心を、思ひを、聴けてはゐるのだらうか、聴かうとはしてゐるのだらうか。自然と込み上げてくるものが有る。美しいシーンだ。映画である。
加へて、本当の意味での親離れ子離れ。別れの切なさよ。涙が止まらねぇぜ。
聾の家族を主題にした物語。忘れられないシーンが在る。いゝ映画だ。