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コーダ あいのうたのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

全体的にはあまり好きではないのだが、いくつかすごく胸に来るシーンがあるため酷評も出来ない映画。

キャスト陣はみんな素晴らしい。特に主演のエミリア・ジョーンズと、父親役のトロイ・コッツァーがとても良かった。実際にろう者の俳優が使われておりそれは良いことだと思うのだが、ただ"そうでないといけない"と圧をかけることは個人的には違うと思っている。これ以上は映画の感想ではないしポリコレ戦争になるのでやめておくが。

この手の映画で主人公が夢を叶えないわけがないので、オチは当然わかっている。にも関わらず、あまりに主人公が気の毒で観ていてしんどかった。

特に母親には本当にイライラした。娘は自分たちの通訳として生きるのが当たり前だというスタンスなのに、ドレスを買ってきたりして"娘思いの母親"アピールをしてくる。やっかいなのは、このタイプの人間は一切の悪気なしに心底"良かれと思って"いるところなのだ。娘が歌うのが好きと言ったときには「反抗期ね」と言う(娘が言う「どうしていつも自分が中心なの」には心底同意した)。自分たちのために娘が夢を諦めると言うと、優しくて良く出来た娘だと褒める。「私がろう者だったら良かった?」ときく娘に「あなたが生まれたときには健常者でガッカリした」という話を笑い話のようにして娘を抱きしめて母親ぶる(このシーンは本当にゾッとした)。娘の晴れ舞台のコンサートではどうせ聴こえないからと歌の最中に今日の夕飯の話を始める始末。これで急に最後で応援スタンスに心変わりされても、全く信頼できない。お前はまず娘にしっかりと謝れ。

そう、この映画は、ラストシーンで今までの問題を全部一瞬で解決してしまう。主人公の歌に合わせて全ての問題が解決していくシーンを次々に見せるこの強引すぎる手法には呆れた。免許を剥奪されて船を売らないと罰金が払えないんじゃなかったの?結局周囲の人とぼんやりコミュニケーションがとれるようになっている状況をハッピーエンドとしているが、安全性を考えたらちゃんと船に通訳者を乗せないとダメだし、そう言われて怒られてたよね?

あと娘は娘で、基本的にはもちろん気の毒なのだが、遅刻してきても一切謝らず「たった20分じゃない」と言ってのける感じとか、ちょいちょいイラッとする描写があった。そもそも合唱部に入ったのだって男目当てだし、何だかなぁ。

あとこの手の「平凡な主人公が才能を見出され夢を叶える映画」は大抵そうなのだが、あまりにトントン拍子に行きすぎだし、"才能を見出す"先生があまりにえこひいきしすぎる。そんなに一人だけずば抜けて上手いようには見えなかったのだけれど、自分が素人だからなのかしらね。現実的にそこまで歌が上手い役者が用意できなかったのなら、せめてもうちょっと説得力を持たせる描写を入れてほしかった。

最後の入学試験の歌唱シーンで主人公が手話をしながら歌うことで家族が感動するのだが、正直こちらは最初から「歌いながら手話をしたら良いのに」とずっと思っていたので、「ようやくか…」という感想になってしまった。あのシーンも、家族が入室禁止なのに普通に侵入していたり、伴奏を固定の伴奏者ではなく慣れ親しんだ先生が行なったりと、やりたい放題が目に余る。何一人だけリラックスした状態で受験しているのか。しかも遅刻しているのに。試験官もこんなやつ合格させるなよ。まぁでも落としたらポリコレが暴動を起こしそうだもんな。

ただいくつか本当に好きなシーンもあり、特に父が娘の喉を触ることで娘の歌を実感するシーンはたまらなく好きだった。役者二人の表情が本当に素晴らしい。あと兄は全体的にとても良かった。この映画で心から好きなキャラクターは兄貴だけ。

ポリコレ全盛期の今、間違いなく高評価される映画。酷評できないと書いたが、結果的に酷評してしまったな。
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