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劇場版 呪術廻戦 0のsanbonのレビュー・感想・評価

劇場版 呪術廻戦 0(2021年製作の映画)
4.2
加筆修正がいい感じ。

今作は、本編である「呪術廻戦」を連載するきっかけにもなった「芥見下々」先生初の短期集中連載作「東京都立呪術高等専門学校」を題材とした劇場用作品である。

そして、呪術廻戦自体は呪術高専の評判が良かった為に、編集部側からの打診を受けて始まった企画らしく、芥見先生曰く「そもそも始める予定のなかった物語」だという。

という事は、原作者本人からしてみても本編はむしろ今作呪術高専の方であり、呪術廻戦は盛大なる"後付け"の作品と言っても過言ではないのである。

それだけあって、話のまとまり方は非常に綺麗であるし、動機や目的などの人物描写もシンプルかつ的確でかなり見易く、その上原作でも僅か5話で終了する物量は、まさに映画向けのプラットフォームであったと言える。

そんな中でも今作で特に素晴らしかったのは、原作に超忠実でありながらも実は原作には存在していない"改変部分"の存在である。

ただし、改変といっても今作のそれは、下手にオリジナリティをぶち込んできたりなどではなく、呪術廻戦内で後出しで語られる事になる"付け足し"の要素を、違和感の及ばない程度に上手くマッシュアップさせているという意味であり、原作を追っている人にこそ伝わるそのリミックス具合がとても見事なのだ。

例えば、呪術高専時代にはまだ設定になかった「パンダ」の「ゴリラモード」をアニメ版で先行登場させていたのを逆手に取って今作でも登場させていたり、原作ではまだ登場する筈もない「京都校」の当時一年メンバーや「七海」「冥冥」「日下部」などの一級術師らを大規模テロを描いた展開に乗じて活躍させていたりと、原作には描かれなかったけど"実際にはあったんだろうな"と思わせるような"納得出来る"追加要素として取り入れていたのは、原作を知っているファンほど嬉しいサプライズになっていた。

中でも「黒閃」の使い所が絶妙で、原作では「乙骨」のただのカウンターパンチだったシーンを黒閃発動にすり替えていたり、呪術廻戦ではたった一コマのみの説明でファンブックでも後付け補足されただけであった、七海が保持する黒閃の連続発動最高記録の瞬間を実際に映像化していたりと、文句の付けようもない秀逸な改変ばかりで、そういった点でも原作をよく理解しながら練られた脚本であったと唸らされた。

また、芥見先生の"悪癖"といえば、好きなものや影響を受けたものを、インスパイアやオマージュとは呼べないレベルで劇中に登場させてしまうところ(夜蛾=蝶野「ガッデム!」など)にあるが、そこに関しても「うずまき」のビジュアルを大幅に改変するなど、ある程度の配慮が垣間見える場面もあったりなど、時系列的に芥見先生が思ったであろう「こうすれば良かった」や「ああしなきゃ良かった」をフォローするような形で、上手く変更をかけていたのは完成度を高めるうえでもかなりの英断だったと言えるだろう。

原作漫画は、18巻時点で累計発行部数が驚異の6000万部を突破しながらも、パクリ疑惑の絶えない内容や稚拙な状況説明、理解困難な設定や解説などで色々とケチが付きやすい作品ともなっているが、アニメ版ではそこを如何に中和、改善出来るかも課題の一つともなっており、作画クオリティと併せて今後も注目していきたいところである。
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