絶望という名の密室。それは蔓延する悲劇の予感、脱出不可能な漆黒の闇。ただ一人の密航者の存在が、完璧なはずのミッションを出口なきサバイバルへと突き落とす。全員が生き残る術はあるのか?絶体絶命の4人に射す一縷の光とは?だが、無情にも我らが地球は遥か遠く、彼女たちの慟哭を傍観者のように眺め続けていた・・。
アナ・ケンドリック、トニ・コレット、といったビッグネームの出演を軸に、宇宙船内で起こった致命的なハプニングを描いたSFドラマである。基本的には船内での会話劇が中心で、SFアドベンチャー的なアクションシーンが主役ではない。そこにあるのは善人ばかりのクルーたちが、最悪の事態に直面した時の混乱であり、やむを得ぬ悲壮、無力に帰すしかない現実を淡々とした筆致で映像化した。監督にはマッツ主演『残された者』を撮ったジョー・ペナ。出口の無さを彷彿とさせるという意味で、この監督の特色は遺憾なく発揮されていると言えるだろう。
〜あらすじ〜
船長のバーネット、研究者のデビット、そして、医師のゾーイは、訓練を終え、2年間の宇宙の旅へと出発した。彼女たちは火星に向かい、それぞれの研究結果を持ち帰るのが目的であり、長い年月を費やした旅はまだ始まったばかりであった。
だが、そんな3人に予期せぬ事態が訪れる。何と、打ち上げの作業中だった青年マイケルが、不運な事故により、宇宙船に乗り合わせてしまっていたのだ。
3人での旅を想定していたミッションだが、マイケルは好感の持てる青年で、すぐに打ち解け、4人での旅はその後も順調に続くと思われた。そこに舞い込む二つ目のハプニング。それは生命維持装置が故障したことで、酸素不足を招いてしまうという危機的な状況だった。バーネットはデビットに藻の育成を増やし、酸素を培養する案を持ちかけるも、生成される酸素は僅か。4人全員を助け出すにはあまりにも脆弱な方法だった・・。
〜見どころと感想〜
絶体絶命の事態に陥った時、人はどんな思考を辿り、どのような行動へと自らを駆り立てるのか。一見、狂喜乱舞のサバイバルがスタートしそうな設定ではあるのだが、この映画の登場人物全員が冷静で、段階的に引き上げられる絶望を受け止める、という難解過ぎるミッションに立ち向かっている。そのため絵面が非常に地味で、限りなく単調。ストーリーの進みも遅いため、ある程度の忍耐は求められるかもしれない。どちらかというと宇宙空間における人類の脆弱性がテーマにあると思っていて、宇宙という磁場に突き放されているように感じる作品だった。
主演のアナ・ケンドリックは珍しくシリアスな演技をしていて、あの甲高い声もやや落ち着いた声色へと変化している。船長のトニ・コレットは狂気の役柄から一歩放れた冷静沈着な設定で、こんなに普通の役だと少し勿体無い気も(笑)
他にも『LOST』シリーズなどTVドラマのイメージも強い、アジア系のダニエル・デイ・キム、密航者には黒人のシャミアー・アンダーソンをキャスティングするなど、多様な人種を敢えて混在させているように思える。
何かが起こりそうな船外活動、エイリアンに変身しそうな研究対象としての藻類、更には全員が生き残れるわけではない設定。どれを取ってもSF映画の定番を掠ってくるものの、そこに無邪気に乗っからないという意味で、この映画は宇宙空間というクローズドサークルにポッカリと浮かんだ舞台なのだと思う。生命維持装置が壊れてしまった時のスムーズな代替案が無い、という点がもしリアリティならば、宇宙旅行なんて怖くて行けたものではない?かもしれない・・。
〜あとがき〜
ネトフリ映画の新作を早速鑑賞してみましたが、どちらかというとハズレだったかなと思います。テーマがシンプル過ぎるせいでダラダラと長い、というイメージが強く、特に後半の盛り上がりの無さにはやや不完全燃焼を感じましたね。
宇宙空間という絶対零度的な怖さ、遠さ。まだまだ人類にとってはあまりにも果てしなく、手のひらを零れ落ちては掴みきれる予感など微塵もない荒野。今更感はありますが、そんなストレートな答えを伝えてくれた作品だったのかな、という気がしましたね。