翔海

隔たる世界の2人の翔海のレビュー・感想・評価

隔たる世界の2人(2020年製作の映画)
3.8
偏見と無秩序な世界。
分かり合えない二人には見えない壁。

アカデミー賞短編実写映画賞受賞。
今作は2020年、アメリカのミネアポリスで起きた白人警察官がアフリカ系アメリカ人のジョージフロイドを逮捕した際に死亡させた事件から制作された作品。この事件をきっかけに全米や諸外国で、これまで行われてきた黒人に対する警官からの暴力的対応が問題視されることになった。日本に住んでいる私にもこのニュースや差別に対する抗議の意見を見る機会もあった。

ニューヨークに住む黒人グラフィックデザイナーのカーターは恋人ペリーの家から愛犬の待つ家に帰る途中で白人警官に煙草の匂いがおかしいと取り調べを受ける。警官の暴力的対応に抵抗したカーターは取り押さえられて窒息死に追いやられる。目が覚めるとそこはベットの上、横にペリーが寝ていて話す会話に既視感を覚える。また、家に帰るため外に出ると先程の警官に遭遇し、彼の暴力的対応によってカーターは射殺される。起きるとまた同じベットの上にいる。カーターは警官に遭遇して殺されると目が覚めるタイムループの中に閉じ込められてしまう。99回殺されたカーターは、警官に自ら話しかけることにする。なんの疑いのない自分を知ってもらうことで警官に信用してもらおうとする。けれど、家の目の前で警官に射殺されて警官が言い放った言葉によって彼も同じタイムループの中にいることが分かる。何度殺されようと家に帰ることを諦めないカーターがペリーの部屋を出る場面で終わる。

BLM(ブラックライブズマター)。
黒人の人権を守るための運動は全米に留まらず諸外国に広まった。主人公カーターが最初に警官に窒息死させられるシーンで(息ができない)という台詞も警官の暴力的対応によって命を落としたエリックガーナーとジョージフロイドと同じ境遇である。エンドロールでこれまでに亡くなった被害者の状況が流れるシーンと物語でタイムループの中で幾度となく殺されようと諦めない姿は、この過ちを繰り返されないで欲しいという願いにも思える。短編映画ならではの限られた時間のなかに強いメッセージを残すことができたのだろうと思う。
翔海

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