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グレイスランドのnetfilmsのレビュー・感想・評価

グレイスランド(1998年製作の映画)
3.8
 ボロボロのコンパチブルを運転する医学生バイロン(ジョナサン・シャーチ)。1年前、彼はこの車に同乗していた妻を事故で亡くして以来、外界から心を閉ざすようになっていた。メンフィスへ向かう道中、彼はヒッチハイカーの中年男性と出会う。 “エルヴィス”と名乗るこの男(ハーヴェイ・カイテル)、ファッションから話し方までエルヴィス・プレスリーになりきっている。バイロンはあまりのなりきりぶりに嫌気をさしながらも、次第に彼の話術に引き込まれていく。青いキャデラックに乗ってメンフィスへと向かう途中の若者が、初老のヒッチハイカーの男を車に乗せたことから、2人の思いがけない交流が始まるロード・ムーヴィーの隠れた名作。ロード・ムーヴィー映画の職人と言えば、真っ先にヴェンダースが浮かぶし、2000年代のロード・ムーヴィーの達人と言えばアレクサンダー・ペインが思い浮かぶが、この映画も彼らの傑作ロード・ムーヴィー群に決して負けていない。

 2人の男の出会いをクロス・カッティングで描いた生々しい冒頭部分から、折り目正しい演出に惹かれる。主人公は一度は同乗を断ったものの、初老の男の「私はエルヴィス・プレスリー」だという言葉に疑いを持ちつつもとりあえず乗せてみる。エルヴィス・プレスリーだと名乗る初老の男を、70年代アメリカン・ニュー・シネマのヒーローであるハーヴェイ・カイテルが演じるのだがこれが本当にびっくりするくらい似ていない。途中ダイナーに寄ったり、モーテルに寄ったりして、田舎の様々な人物に出会うのだが、彼は一向にエルヴィスだと信じていない。田舎道では速度超過するとすぐに田舎の保安官がやって来ると相場が決まっているのだがやはりというかご多分に漏れず、この映画でも太った初老の保安官がやって来る。メンフィスへの道中にはまず荒涼とした一本道と、あとはダイナーとモーテルとブロンドとクラシック・カーと賭場と悪徳保安官くらいしかいない。マリリン・モンローのそっくりさんを演じたのは、カイテルと同じ70年代の名優ピーター・フォンダの娘ブリジット・フォンダ。華奢で長身な彼女が、グラマラスなモンローに必死でなり切ろうとしている。
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