ポロろっか

シン・仮面ライダーのポロろっかのネタバレレビュー・内容・結末

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

IMAX鑑賞。
前評判から、期待半分不安半分くらいの気持ちで鑑賞に挑みましたが……、自分にはとても刺さる内容でした。『シン』のシリーズの中でも一番好きな作品です。
『シン・ウルトラマン』は、超常的な存在がいかにして人類に寄り添い、人類のヒーローとなるかを再解釈したような作品でしたが、本作では一人の人間が人を超越した力を持った人ならざる者となり、その力に苦悩しながらも人々を助ける悲しみを背負ったヒーローを再解釈。まさに仮面ライダーが描いてきた根幹にある、孤高のヒーロー像でした。

本作の本郷猛は、優秀ではあるものの、コミュニケーションが苦手な不器用な男。特別に正義感が強いわけではないですが、"優しい"という一点は一貫しており、だからこそ敵であっても暴力を奮うことに最初は戸惑いを覚え、戦いを躊躇う。大人向けヒーローというと暴力シーンやグロさを盛り込む作品が多く、本作でも初っ端から戦闘員を殴ると返り血を浴びるライダーという描写がありますが、これがただグロいシーンを入れたいというわけではなく、ヒーローと言えど敵を殴ることは"暴力"であることを強調するシーンになっていたことはよかったです。
そして、ヒロインのルリ子。原点通り本郷を改造した緑川の娘ではありますが、その正体はSHOCKERの実験で作られた生体電算機で、そのSHOCKERを裏切って活動する戦う女性。初めは強くてクール、決め台詞通り抜け目ない機械のような女でしたが、物語中盤のハチオーグ編の辺りから、かつての友を失うことに傷つき、本郷に弱さを見せる人間らしさを見せます。自分はここ辺りから本郷とルリ子の関係性にとても心を打たれました。本郷の優しさから、だんだんと彼女を守りたい、力を貸したいと戦いにも意味を見出していき、そんな本郷をルリ子は信頼するようになっていく。パンフではルリ子役の浜辺美波氏が「初めて仮面ライダーをヒーローと認識したのはルリ子」と言っており、きっと孤独に気を張って戦い続けてきたルリ子が唯一甘えられた彼女にとってのヒーローが本郷なのかと。この二人のバディ関係が、実に好みでした。
そして、終盤で登場した、もう一人の仮面ライダーに変身する男、一文字隼人。彼のキャラクター付けも非常に良かった。ジャーナリストで本郷と比べるとどこか飄々とした陽気な男。そんな原点の一文字を現代風にアレンジした(平成以降作品の2号ライダー味もどこか感じました)本作の一文字は、柄本氏の演技もあってか、物語の構成上出番は決して多くなくても最後にはなんだか好きになってしまうインパクトと愛嬌があるキャラクターでした。
ルリ子の死をきっかけに、最後の戦いに挑むWライダー。"仮面ライダー"をSHOCKERに改造された怪人としての名バッタオーグではない存在としての名乗りだったことが、一文字が"仮面ライダー第2号"を名乗ることへのカタルシスになっていたのも熱い構成でした。ショッカーライダーを彷彿させる量産型バッタオーグとの対決で、スピーディなアクションとWライダーキックというかっこいい見せ場を作っておき、最後の敵であるルリ子の兄でチョウオーグ、仮面ライダー第0号との戦いは終始泥臭く、ただ力で倒すだけではないという戦いの終わらせ方も大好きでした。かっこよく敵を倒すヒーローもいいですが、最後まで優しさを忘れない故の、力だけで終わらせない姿が正義のヒーローなのだと思います。
ラストは、戦いで命を落とした本郷から"マスク"を通じて意思を継ぎ、"仮面ライダー"として生きていくことを決意した一文字がサイクロン号で一人走り去っていく。やっぱり仮面ライダーのラストシーンはこうですよね。わかってるなあ庵野氏。
仮面ライダーが原点で描こうとした、悲しみの涙を"仮面(マスク)"で隠すヒーロー。だからこそ、マスクが劇中で重要な役割を果たすのが本当に良い。ルリ子が遺した意思をマスクを通して受け取って、人知れず涙を流す本郷のシーンは、本作のハイライトです。
エンドロールで流れる、原点の仮面ライダーソングも、ただのオマージュではなく、まさに仮面ライダーの生きざまを表した歌詞だったのでぴったりでしたね。

細かいところで好きだったのは、最後に明らかになる滝や立花というどこかで聞いたキャラクター名だったり(また君だったか、斎藤工)、2号が登場するまでは変身ポーズはなく風の力で変身するライダーだったり、最後の最後にマスクがお馴染みの配色になったりという、ファンならにやりとしてしまうシーンの数々。自分もそこまで初代ライダーや石ノ森章太郎作品に詳しいわけではないので、たぶん拾い切れていないパロ要素もあるのでしょうね。
アクションは、CGを使ったダイナミックなライダーキックだったり、スピーディーな戦闘シーンだったりと良かった面もあれば、敢えてらしいですが暗闇で何をやってるかイマイチわからないシーンなどもあり、良くも悪くもといったところでしょうか。
キャラで言うと、ハチオーグがルリ子に対してデカい感情を持ったキャラで、同人作品などで輝きそうなキャラだ…と思いました。

確かに味付けはゴジラやウルトラマンに比べると趣味色が濃く、怪人をはじめとしたキャラ造形もアニメや子供向け特撮っぽい。パロディシーンは元ネタがわからくてもともかく、庵野氏らしい専門用語や謎設定が多くて理解が追いつかないなど、シン作品の中でも一般受けがしなさそうというのもすごくわかる作品です。
しかし、ヒーローオタクの自分としては、理想とするヒーローの描き方を感じ、深いところに突き刺さる作品でした。現状今年No.1映画。
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