幽斎

メインストリームの幽斎のレビュー・感想・評価

メインストリーム(2021年製作の映画)
3.6
公開前からクレッシェンドな注目を集め、ヴェネツィア映画祭でプレミア上映された話題作。アメリカ3大ネットワークで特集が組まれる気合の入れ様とは裏腹に、イザ公開されると興行成績、評価共に芳しいモノでは無かった。MOVIX京都で鑑賞。

Gia Coppola監督は名匠Francis Ford Coppolaの孫、オスカー監督Sofia Coppolaの姪。従弟は皆大好きNicolas Cageとハリウッド有数の名門一家。ハリウッド・スターJames Francoが書いた短編小説を映画化した「パロアルト・ストーリー」長編映画デビュー、此方も有名な二世女優Emma Robertsと、James Franco自身が主演を務め、作品の評価も好意的「流石はコッポラの血を受け継ぐ」申し分ないデビューを果たす。

監督が脚本を書き「ラ・ラ・ランド」有名なFred Bergerがプロデューサー。製作は勿論、Francis Ford CoppolaとGeorge Lucasが設立した「American Zoetrope」。放漫経営で一度破綻するが、Sofia Coppolaが見事に再建、現在はTV製作で経営も安定。Sofia Coppolaの兄Roman Coppolaが有能なプロデューサーとして名門を支えてる。因みにTalia Shire、75歳は今も御健在である。

監督はイメージングに従弟のNicolas CageがYouTuberに成ったら?がテーマ。演じるのがセルフでCageで良かった気もするが(笑)、脚本に興味を持ったハリウッド・スターAndrew Garfieldが資金を出す事で主演。共演Maya Hawkeは、父親が皆大好きEthan Hawke、母親が私の世代より上の方にはアイドル?Uma Thurman。有名に成ったのは奇しくもSofia Coppolaが製作したCalvin KleinのCM。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」出演でメジャー・デビュー。因みに父親譲りで歌も上手い。

将来の意識調査で、成りたい職業の男子中学生の1位、女子2位にYouTuberがランクイン、インフルエンサーは職種として認識される。このご時世、TwitterやFacebook、InstagramのSNSを活用して無い人を捜す方が難しい。私は有る理由でLINEはしてないが、リスクヘッジを考えると、自ら個人情報を晒す事に違和感を覚えるアラサー男子(笑)。そう言えば本作にも金を「払って」出演した日本の芸能人が居たな。金で買えるハリウッド進出、コッチも闇が深い。

ネット社会を映画にする最大のリスキーは、即応性への順応だろう。本作が企画されたのは2018年、それならYouTuberは最先端だろう。しかし、作品を公開するにもCOVIDの影響で2021年に先送り、現在では全員がYouTuber、何の新鮮味も感じない。刺激が強い動画ほど飽きるのも早い、次第に視聴者数は下落する。人気回復の為にパフォーマンスはエスカレート。バズれば勝ちと言う価値観が、共感を呼ぶ事は無い。

昔は映画館で時事ニュースを流した時代が有ったらしく、テレビの登場で映画は衰退すると誰もが信じた。今度はYouTubeの台頭でテレビが危ないと言われる。映画もCOVIDの影響で映画館ではなく、ネットで見る習慣が付けば劇場も死活問題。この視点は新しくも無く1976年の名作「ネットワーク」視聴率に踊らされる業界人の狂騒を痛烈に風刺して高く評価された。私は中身よりも器の問題が大きいと思う。紙芝居が週刊漫画に、それが映画からテレビ、そしてネットへ。スクリーン→テレビ→パソコン→タブレット→スマホ。問題なのは、社会を映す鏡に「リテラシー」私達に有るのか否か。

Andrew Garfieldとネットと言えば代表作「ソーシャル・ネットワーク」。Nicolas Cageをモデルにしたと言われれば、彼のアドリブもキレを増すのは当然(笑)、スパイダーマンのイメージが強いかもしれないが元々は舞台俳優で「エンジェルス・イン・アメリカ」トニー賞主演男優賞の実力派。レビュー済「アンダー・ザ・シルバーレイク」良い味出してた。Maya HawkeのInstagramには370万人のフォロワーが居るのに、インフルエンサーに憧れる役を演じたのもスパイスが効いてる。

秀逸なのは司会者役で登場したJohnny Knoxville。彼こそYouTuber、インフルエンサーの先駆者と言える世紀の問題作、MTV「ジャッカス」制作者。過激、非常識、下品極まりない三拍子揃った、迷惑系動画のパイオニア。「jackass」は間抜けと言う意味だが、映画版も大ヒットして真似をした未成年が死亡する事件まで起きた。その過熱振りは今のYouTuberと何ら変わらない。私はジャッカスには全否定の立場だが、放送前の警告文の日本語訳「番組内で危ない事をやってるのは、スタントマンかただのバカです。よい子やクソガキ、精神年齢の若い大人の皆さんは絶対に真似しないでね」だったら、ヤルなよ(笑)。そんな彼がYouTuberを糾弾する「側」で演じるのも、皮肉が効き過ぎて火傷しそう。因みに「ジャッカス」最新作が日本上陸未定?(笑)。ハリウッドのメジャー、パラマウントが大真面目に創ってます。
https://www.youtube.com/watch?v=FNq-QT2Jpng

カテゴライズすれば私の範疇のサイコ・スリラーですが、「ジャッカス」を見ると余計に作品全体が薄味と言うか、深みに欠けるのでスリラーと呼ぶにも意外性も無く、何となく私の苦手な青春ドラマ風でサクッと終わった印象が強い。問題は私自身がテレビ自体を観て無い現実。アメリカのニュースをネットでリアルタイムで見てる方が遥かに面白い、レビューの情報収集にも成る。インフルエンサーとテレビタレントの垣根が無いのと同時に、過激な映像を求める一方で、一線を超えると忽ち炎上する自己矛盾。ネットは見るモノで参加するモノでは無い位の肌感覚で丁度良い。映画は時代をトレースせず、本分に立ち返って人間模様をしっかり描いて欲しい。

「悪いのは楽しんでるお前らも同罪。お前らが求めるから俺はやったんだ」詭弁だろうか?。
幽斎

幽斎