シャチ状球体

私はヴァレンティナのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

私はヴァレンティナ(2020年製作の映画)
4.4
貧富の格差が凄まじいブラジルに暮らすトランスジェンダーのヴァレンティナ。

転校先のグループLINE(?)でアウティング&ミスジェンダリングをされたり、自宅の窓を割られたりといった危害を加えられる彼女だが、これは決してフィクションで済む話でもなければ遠い世界の話でもない。
アメリカや日本のネット上には、宗教右派や一部のラディカルフェミニスト(TERF)達、そして一般の人たちによる主にトランス女性に対する根拠のない憎悪を煽る言説が溢れているし、アメリカでは2020年に最低でも41人のトランスジェンダーが殺害されている。

そして、本作は性暴力の被害者に向き合う物語でもある。
閉鎖的な田舎のコミュニティでは性的マイノリティの生きる権利は脇に追いやられ、トランスジェンダーの入学を反対する父母会28人の署名が学校に提出されるほどには前時代的だ。

同じトランス女性が主人恋の映画と比較をすると、『海に向かうローラ』がシスジェンダー、ヘテロセクシャル中心の世界が徐々に変貌しようとしているポジティブな面を中心に描写していたのに対し、こちらは未来永劫保守的な空気が変わるビジョンが見えない田舎からはさっさと脱出しなければ生存権が保障されないという、地方在住の当事者が置かれた危険な環境に立ち向かうヴァレンティナとクラスメイト達の連帯が力強い。
シャチ状球体

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