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ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言のokappaのレビュー・感想・評価

4.0
ナチス統治下に、ナチス党員及び親衛隊に所属した人や強制収容所があった地域で暮らしていた民間人へのインタビューで構成されたドキュメンタリーです。映画として面白い面白くないということではなく、記録です。

多くの人は、当時のドイツ人は恐ろしいことをした恥じていると述べます。しかし、主語が「自分」となると、知らなかった、直接関与していなかった、自分は犯罪者であると正面から認めることはできず、遠巻きになってしまいます。虐殺については支持しないとしても、自分が親衛隊に所属したことや仲間と共に戦ったことについては今でも誇りに思っているという方。やり方はどうあれ、ヒトラーの理念は間違っていなかったという方もおられます。
勿論、自分は恐ろしいことをしたと強く後悔の念をあらわにしている方もいらっしゃいました。

親衛隊だった方と、学生との対話のシーンが印象的です。とても感情的になり、なぜ今さら恥じるんだと詰め寄ってしまっていた学生がいました。元親衛隊の方も感情的になってしまってはいましたが、それでも自分がしたことや振り返って感じていることを述べ、だからこそ若者と話すことは意味があるとおっしゃっていました。
また、インタビュアーの方が元親衛隊の方に対して当事者意識を持った返答を導き出すように容赦なく核心的な質問を繰り返すシーンもあります。インタビュアーをしていた本作の監督は祖父母をナチスにより殺害されたユダヤ系の方とのことで、質問者側が"当事者"として臨んでいる姿勢が伝わってきます。

責めてしまった次世代の若者も、自国のために組織に参加し仲間とて戦ったことを誇りに思う人も、当事者として罪を受け取らめられない人も、罪を認めてほしいと思う人も、そのどれも否定することはできないなと感じました。その当時、倫理的に正しいことをした人、しようとした人、主張した人は殆どが無事ではなかったでしょう。そんな中、もし自分が当事者だったとして何かできただろうか。上手く想像もできない。

過去の行い・出来事で未だに歪みあっている国々や民族や人々がいるのは事実です。次世代の人々がどれだけ善良なのだとしても、解消が難しいことがあります。また、戦争に勝てば前線で戦っていた兵士は英雄ですが、やっていたことは敗戦国の兵士も戦勝国の兵士も変わりはありません(勿論、武装親衛隊による民間人の虐殺などはまた別の話とは思いますが…)。戦場ではお互いの命を文字通り預け合うわけで、仲間と通常では考えられない程強い絆が生まれることもどちら側で戦っていた兵士にもあり得たことでしょう。
必ずしも、親衛隊で仲間と共に戦っていたことを誇ることはおかしいと言えるだろうか。

自分は戦争を知らない世代で、なおかつドイツやナチス統治下に置かれた諸国出身ではありません。「ナチス統治下で党員や親衛隊または準ずる組織に所属したり働いていた人々、国が何をしているか認知していたが何もできなかった民間人」や「親や祖父の世代でとてつもなく恐ろしいことを行ってしまった国に生まれた次世代の人々」の気持ちや立場についてとても想像が出来るものではありません。できることは事実を知ることだと考えています。少なくとも、過去の過ちを知ることは無駄ではないと思うのです。
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