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草の響きのmasayaのレビュー・感想・評価

草の響き(2021年製作の映画)
4.2
北の港町で彼は走る。心の健康を取り戻す為に走り始めたのに、周囲も自身も気づかない内に、それはいつしか生きる唯一の目的になっている。心の治癒の難しさ。人の心は計り知れなくて、再生への道と死への道は、どこまで走るかだけの、実は一本の同じ道かも知れない。
安定の佐藤泰志原作の函館シリーズなので、快方に向かった所で予定調和のハッピーエンドとは行かないとは思ったが無情のラスト。全てから解放されたような主人公の笑顔にアンビバレンスが溢れた。東出昌大さんはこういう壊れみの役柄で行くんでしょうな。
思いがけない所で全く縁のない人生どうしが束の間リンクする場面がある。少年とは数日一緒に走っただけなのに、一瞬の心の交歓は彼の中に何かを残した。それだけで少年も彼も孤独ではなかった。全くの孤独はあり得ないことを、少年に伝えることが出来たなら。
夫を献身的に支え続けた奈緒演じる妻にとってのこの物語が、どんなに過酷だったかということも考えなければならない。結婚して見知らぬ土地に住み、傷ついた夫と向き合い、身重の体でさらに過酷な現実に直面する。不幸に順位はつけられないとしても、誰よりも不条理を浴びたのは彼女だった。
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