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三人の女のninjiroのレビュー・感想・評価

三人の女(1977年製作の映画)
4.5
三人の女は三人である必要はなく、一人であることは考えていない。二人であれば良しと思ったとしても、結局四人、五人と散らばって自我の掴み所を喪って、またふと振り向けば一人が雨後の筍のようにいつのまにか形を顕し、間も無くその場で三人を丸呑みにしてか、三人が一人をバラバラに捌いてそれぞれ呑んだか、何れにせよ残ったのは三人の女である。

自分が今の自分でいる自覚を紐解けば、いくつもの自分の要素が実は他者の要素を素材としたタペストリーに過ぎず、寄せ集めた要素同士が何の拒否反応も起こさず、何の反発もせず、整然と並んで全体を構成し、何らかちゃんとした意味のある形を保っている方が異常ではないのか、なんてな。

ロバート・アルトマンは意地の悪い作家であるのは知られているが、この作品の意地の悪さはその極北とも言ってもいいのではないか。しかも「M★A★S★H」や「バード★シット」のような悪戯で鮮やかな意地悪さとは正反対の、ジメッとした底意地の悪さ。舞台をカリフォルニア、砂漠地帯のパーム・スプリングに置きながら、この圧倒的な体感湿度はどうしたことか。一見どこまでも穏やかで静かな筆致の中に、そのくせ終始誰のことも何のことも肯定しない、それどころか誰かを肯定することの虚無、偽善、気持ち悪さに端を発して、凡ゆるものに対する憎しみに似た否定が全体を支配し、最終的には諦観の渋滞地点に憎悪が一閃、クラッシュする。

子どもの頃にテレビで流れる本作をタイトルも知らず何となく観ていて「なんだこれは」と茫然とした過去から幾年月、これまで数々の「なんだこれは」を体験してからの再鑑賞にも関わらず、何の補正も減衰もない鮮烈かつ普遍的な「なんだこれは」が確認できたことをなんだか喜ばしく思うとともに、少なくとも数日間は引き摺りそうな不気味な違和感を、今感じている。
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