トランス女性の主人公はようやく昔から好きだった熱帯魚に関わる仕事にも慣れてきたが、いまだ自分に自信が持てない。そんなある日、見積の仕事のために故郷の街に久々に足を運ぶことに。折しも密かに憧れていた同級生から連絡が。当日の再会を約するが。
理解ある職場のようで、先輩役には猪狩ともかさん!事故で車椅子生活となった後も地下アイドル仮面女子のメンバーとして活躍。何回かイベントのステージ、トークショーなどにも足を運んでいたりで思わぬ出演に「おっ」と声が出かける。車椅子に乗って仕事をしている役所でした。
職場はさておき、されど、仕事の出先でお手洗いを借りたいというと、「二階に誰でもトイレが有るから」と自然に言われたり。トランス女性とわかって好奇の目を向けられたり。まるで水槽の中にいるかのように周囲からの隔絶感を幾度も味わう。
仕事先でのレディーススーツ姿をわざわざ着替えて臨んだ同級生との会瀬だが、彼は当時のサッカー部仲間を呼んでの飲み会をセッティングしていたのであった。
「足立レインボー映画祭vol.5LGBTQ のリアルを知る」(北千住・東京芸術センター天空劇場)にて観る。上映後には東海林毅監督、主演のイシヅカユウさん登壇のトークも。
以下はメモでなく記憶に基づくので発言との違いがあったら失敬。自身はバイセクシュアル当事者の監督、「どんな役でも演じるのが俳優」ということを否定はせずに、その上でトランスジェンダー当事者が演じるべき理由を語る。一つは「労働問題」。子役からキャリアをスタートさせることも珍しくない俳優業だが、当事者は性自認の葛藤などを経て、キャリアをスタートさせることになり、人脈などを得る機会の上でも不利になる。また、「メディア表象」の問題。当事者でない俳優が演じる作品で偏見などが広まる可能性も指摘。
監督は当事者が演じることで役柄と俳優本人が同一視される恐れがあることにも言及。その点ではトークの中でイシヅカユウさん本人は幼少の頃から自然と性別への違和感を主張していたようで、地域との関係も男子高校生として故郷を去った後、一度も足を運ばず、知人にも今の姿を知らせることのなかった主人公と異なり、本作の上映・トークが故郷で開かれた際には幼稚園から小中など歴代の担任の先生が来場してサイン会に並んでいったそうで当たり前ながらトランスジェンダーという属性でひとくくりにはできぬものだよなぁ。イシヅカユウさん、作中では周囲の無意識の心ない反応に意識を閉ざしてしまう描写も多く、硬い無表情になりがちでしたが、壇上では笑顔も多く、トーク終えての弾むような足取りでの退場など、ぶっちゃけ作中より魅力的に見えました。
本作では起用以外に作中のエピソードなどシナリオ以前の段階で複数の当事者に話を聞いて「今時こんな」と言われることも「ある」と反応が別れたこともなど脚本執筆時の話も披露されてました。
たまたまチラシを手にする機会が有り、ああ、地元でこんな趣旨のそして、無料での映画上映の企画が回を重ねていたのぐらいな軽い気持ちで足を運んでみたこともあり、チラシ以上の情報なきまま、観賞。
なお、観終えてトークも聴いて。後半の別作品「ユンヒへ」上映前の休憩時間にこちらで監督のフィルもグラフィーをチェックして驚く。「え、この監督さん、昔観て楽しかった『喧嘩番長』シリーズの監督さんじゃん!」。思わず、映画祭終了後、客席にまだいらした東海林監督にその旨、お伝えしてしまい、「色々、やってます」とお返事頂けたのでした。