#twcn
ドキュメンタリーの初期衝動。
By口ロロ
って感じですよね。
時は1968年。
カメラと録音機が俺たちの手の中に収まるはるか50年前。
『映像と音声が同時に録音できる』という奇跡の進化を遂げ映像作家や映画監督たちは外へ繰り出した。
そしてドキュメンタリー映画という『虚構ではないなにか』というジャンルが生まれた。
『現代アートハウス入門Ver.2』という企画を存じていなかったのですが、日本でいうミニシアターのことをアメリカではアートハウスっていうそうです。
そんなアートシネマで上映され愛されてやまない映画たちを日本のミニシアターで上映し、そんなアートシネマを愛して止まない映画監督や作家が1本の映画について60分トークorレクチャーをする、といった企画。
終わったら22時だったよw
これで1800円は鬼安いと思う。
その手間暇、版権料やタイミングを考えたら3000円でも出す。
しかも現役の映画監督が60分も講義してくれるんですよ?
お邪魔したのは、ドキュメンタリー映画a.k.aダイレクトシネマの歴史的映像作家、メイズルス兄弟が訪問販売で聖書を売り歩くセールスマンに密着したもの。
最近シーズン2がキャンセルになったことでも話題のCOWBOY BEBOPを彷彿とさせる古き良き仕事人たちがタバコ片手にコンバーチブルで華麗に登場しキャラクター紹介がスタート。
この辺がドキュメンタリーっぽくないですよね。
さあこれから映画が始まるぞ!という期待感でワクワク。
メンバー
ポール:ベテランセールスマン。最近落ち込み気味(Irish)
ジッパー:見た目はいかついが優しい
ラビット:前歯の蝶ネクタイ紳士
ブル:まとめ役。一見マフィア
カメラが密着するのは主にこの4人。
キャラ立ち4本マイク。
そもそも日本で生まれ育ち特定の信仰を持たない私にとって聖書をお金を出して買うという発想自体が新鮮。
もらえるものだと思ってたw
彼らが売り歩くのは色鮮やかで美しいイラストの入った聖書(カトリック)と百科事典の50$のセット。
だいたい今の貨幣価値の1/7だからそこそこいい値段ですよね。
この辺が正教会っぽいんですけど、お尋ねているのがアイルランド&スコットランド系や北欧系の移民の方が多かったのを見るとやっぱカトリックなのかな?とかちょっと混乱しました。
※こちら配給に確認させていただき正しくはカトリックです
とりあえず置いといて!
彼らのお仕事システムとしてはこう。
教会に本を置き興味がある人は名前を記載。それを見て該当のお宅を訪ねてゆく。
いや、そのシステム教会噛んでますやんかw
いいか悪いかはおいといて。
分割払いもできるんですって!
しかも聖書が届くのに2ヶ月もかかるんですって!
あの手この手で信者の手元に美しい聖書を届け彼らに神の御加護を授ける物売りたち。
彼らは神よりも紙(money)を信じているのでしょうが。
伝統的なボストンから開放的なフロリダへ移動する中、様々なお宅へお邪魔するセールスマン。
昼間にお邪魔するので主に奥様がターゲット。
美しい聖書にうっとりするもののお金がない。
アメリカにきたばかりの移民が多い。
ちなみにセールスマンもユダヤ系やアイリッシュ&スコットランド系。
現代から見たら一戸建ての結構いい家に住んでて髪や爪(この時代はポイントネイルが流行ってたんだ)にも気を遣う奥様方ですが今週の牛乳代にも事欠くレベル。
彼らにとって50$は神のためでも物欲のためでも非常に「贅沢」。
皆さんを見ているとセールストークに登場するような投資という概念はないよね…。
中には2つ返事で一括払いするゆとりのあるお宅や、夫婦で信仰の違うお宅、ひとり暮らしのおばあちゃん、4人の子供を育てるシングルマザー、そして「夫に聞かないとわからない」と決断できない奥様、「欲しいけど払えない」と哀しげな表情
ほんまか知らんけど!
すごい思ったのは他人の家にお邪魔するのってめっちゃおもしろいよねw
今回の映画は「聖書を売る」という目的のために個人のお宅にお邪魔して話を聞いたり聞かなかったりセールストークを繰り広げたりなんですけど、外では見せないような表情や態度、悩む様子がカメラに収まってるの凄い…。
当時なら今より撮影機材が珍しくて気になるはずなのにそんな様子が微塵もないのよ…。
これはメイズルス兄弟(弟さんの方だっけ?)の一種の技術だと思う。
人柄でしょw
セールスマンと同じでその人がどういう人か?で会話を楽しむこともあれば商品を買うこともあるじゃないですか?
これは「ドキュメンタリー映画」であり「カメラに収まる一コマ」なんだけど紛れもなく人対人のコミュニケーションの一幕なんですよ。
仕事を終えてホテルに帰ってきてはみんなで今日の成績を報告し合ったり自慢したりそれをウザがったり落ち込んだり励ましたり酒を飲んだりご飯を食べたり。
家に帰りたいと嘆く日も。
セールスマンもやはり紛れもなく人。
ドキュメンタリーに必要なのはやはり人。
レクチャーで観察映画の第一人者:想田監督が同じくドキュメンタリー作家のフレデリック・ワイズマンとの比較でおっしゃっていましたが、組織にスポットを当てる前者と比べてメイズルス兄弟は人にフューチャーしている、と。
その意味でどうしても温かみが生まれてしまう。
ここでもまたふと立ち止まる。
ドキュメンタリーとは?
ありのままを観せるもの?
カメラを介し編集を挟むことでそれはありのままではない。
この面白みが「ドキュメンタリー映画」であると。
どれだけ撮影クルーが気配や存在を被写体にわからないようにしてもカメラに収まる時点でそれは「ありのまま」ではなくなるのでは?と思いました。
ドキュメンタリー映画には明るくないのですがいろいろ考えましたね。
今作が大好き!&メイズルス兄弟と同時期にNYにお住まいだった想田和宏監督のレクチャーは本当に面白かった!
特に今回は同じドキュメンタリー作家ということで同じ職業の方から見た「セールスマン」
嬉々と自作でない好きな映画について語る映画監督もなかなか見れないかとw
めっちゃ楽しそうでしたよ監督w
ワイズマンとメイズルス兄弟の比較でいうとワイズマンはSpeces、メイズルス兄弟はTime(本人曰くengagement)という違いが興味深い。
被写体との接し方を兄のアルバート・メイズルス監督は"Don't go to far"と仰っていたとのこと。
想田監督が「行きすぎないようにする」と訳してくださったのですが「ファー」が私の中で"fore"なのか"far"かピンとこなくてちょっと混乱しましたw
想田監督はNY暮らしが長いから英語がちょいちょい挟まるのが非常におもしろかったです。
ちょいちょいこういう場面があり自分で訳すパターンと監督が訳してくださるパターンを咀嚼しながらとても勉強になりました。
国土の狭い日本国内で全国24館のアートハウスa.k.aミニシアターに集まった観客の皆さんと同じ時間に同じ映画を見て、同じレクチャーを聞きオンタイムで質問ができたりしたのが個人的にすごくグッときた。
文明が進んだことによりとてもにこやかになりましたよ。
この企画どんどん続けて欲しい!
ユーロスペースなんてぎゅうぎゅうでしたやんか!
京都シネマもシネフィルっぽい高齢層から学生っぽい方から私っぽいヲタクと客層幅広く、1/3ほど埋まっておりレクチャーの時間は笑い声やそれぞれのコメントなども聞こえてきました。
映画ってさ知らない人と見るの楽しいよね。
(いきなりどうした?!)
常々、映画館が好きで映画体験好きとしてはやっぱり映画ってひとりで観るより誰かと観たほうが楽しいなって思いました。
レクチャー&トークされる方の地元、とか出張編とかで前っくの劇場と観客の方々を見たりできたらおもしろいな。
アメリカ公開時の"聖書バッグを下げて靴を履いて歩くキリスト"のビジュアルめっちゃいい。
新(日本初上映)
日本語字幕:森 彩子