DaiOnojima

バーダー・マインホフ 理想の果てにのDaiOnojimaのレビュー・感想・評価

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 重い映画である。

 西ドイツの革命組織「ドイツ赤軍(RAF)」の興亡を描いた作品。アンドレアス・バーダーとウルリケ・マインホフによって1968年に結党され、ふたりが獄中で不可解な死を遂げる1977年までのおよそ10年の歩みを描く。ふたりの獄死は公式には「自殺」として発表されたが、実は権力による謀殺ではないかという説は根強く囁かれている。 バーダー獄死のきっかけなり、パンタ&HALの楽曲「Audi 80」(『1980x』収録)のモチーフともなった「シュライヤー事件」も描かれる。監督は『クリスチーネ・F』を撮ったウーリー・エーデル。

 映画はなるべく過剰にドラマティックな演出やエモーショナルな描写を避け、起こった「事実」のみを淡々と積み重ねていくクールなドキュメント・タッチで描かれる。ここで描かれるエピソードがすべて「真実」かどうか判断する知識は私にはないけど、それにしても同時期の日本の学生運動や新左翼組織とはずいぶん違うと思ってしまった。冒頭がいきなりヌーディストビーチの場面で戸惑うけど、フリーセックスや性の解放、ロック、ドラッグといったヒッピー的ライフスタイルと政治運動家の日常が自然と結び付いていて、男女の関係も日本に比べればずっとリベラルに見える。英米の最新のロックで踊り、戯れにクルマから銃を乱射してはしゃぐという、まるで安いアメリカン・ニュー・シネマのような描写も、それが事実であるかどうかは別として、興味深い。日本の学生運動では英米のロックなんて「退廃・堕落したアメリカ帝国主義文化の象徴」ぐらいに思われていたし、内部での男女差別も当たり前だったようだし。学生でも銃が簡単に手に入ってしまうような環境ゆえ、自然にその活動は日本とは比較にならないぐらいどんどん過激化し先鋭化していくわけだが、その攻撃の矛先が権力に向かう以前に、セクト間の内ゲバや連合赤軍の「総括」のように味方(内部)に向かってしまい自壊してしまった日本に対して、あくまでも外部の権力に向かってくドイツでは、同じ「過激派」といってもずいぶん違う。だからこの映画は「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(若松孝二)と比較するといいと思う。

 現在なら十把一絡げに「テロリスト」として片付けられてしまいそうな彼らの活動も、リアルタイムではそれなりに大衆の支持を受けていたからこそ、日本ではすっかり反権力運動が消滅してしまった70年代以降も続いていたわけで、その意味は今でも軽くない。

 重く暗い映画だしカタルシスも爽快感も微塵もないが、150分という上映時間であっても最後まで飽きずに引き込まれる。現代史を考えるにあたっては避けて通れない作品だった。
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