幽斎

復讐者たちの幽斎のレビュー・感想・評価

復讐者たち(2020年製作の映画)
4.0
時は1945年、舞台は敗戦直後のドイツ。ユダヤ人のマックスの、ナチスのユダヤ人大量虐殺、ホロコーストを生き延びた唯一の願いは、強制収容所で離れ離れに為った妻と息子を探す事。ユダヤ人の難民キャンプに赴いたが、其処でイギリス軍の指揮下に有るユダヤ旅団の兵士と出会う・・・。アップリンク京都で鑑賞。

毎年必ずナチス映画が公開されますが、本作はユダヤ人に依るナチスへの報復組織の実態を暴く。ナチス映画は日本人には遠い存在ですが、海に囲まれた島国、自衛隊に依る戦力保持で、戦後も韓国に不法占拠された島根県の竹島やロシアが統治する北方領土への関心も薄く、平和ボケを満喫してる。その点、ナチス映画は残酷な史実を克明に描いた作品も多く、ドイツの悪行と戦うスリリングな作品等、タッチは多岐に渡る。ユダヤ人とナチスの対立を描く作品が多い中、本作は珍しい「ユダヤ人とユダヤ人」の戦い。暗いテーマに違いないが、基本英語なので分り易い。

復讐組織「ナカム」の目論む「Plan A」とは、ミュンヘンやベルリン等、ドイツの主要都市を狙った虐殺計画。ホロコーストに関与した人間に復讐するのみならず、ドイツ市民全員を無差別に殺害する狂気の計画。正に「目には目を歯には歯を」。虐殺されたユダヤ人は600万人以上、「Plan A」の復讐はドイツ国民600万人を虐殺する目的。「Nakam」とはヘブライ語で「復讐」。「Plan B」も実行された事実が残されてる。

ホロコーストサバイバーの復讐劇ですが、マックスやアンナは映画の為の創作上の人物ですが、ナカムのリーダーのアッバ「Abba Kovner」は実在。1987年に69歳で亡く為ってる。彼は詩人で有り作家ですが、事実に基づくと有るが詳しい出展が明らかにされて無い。京都の大学でホロコーストの研究をしてる友人に観て貰ったが、彼が言うにはイスラエルの歴史家、Dina Poratの著書「The Fall of a Sparrow: The Life and Times of Abba Kovner」を下敷きに創られたと指摘する。

友人に依れば「Plan A」は、ニュルンベルクの水道施設に潜入して毒を流し込む計画らしい。ニュルンベルクを標的にしたのは其処がナチスの本拠地だから。アッバが毒を調達する為にパレスチナに向かった事や、帰りの船でイギリス警察に発見され毒を海に捨て逮捕された事も事実とされる。「Plan B」は、Plan A の失敗で、ナカムの残りのメンバーがアメリカ軍が収容してたSS、ナチ党親衛隊の囚人を毒殺しようとする。ヒ素を調達し納品されるパンに混ぜた結果 2000人に影響は有ったが死者は出なかったそうです。

ナチス映画と言えば妻と子供を殺されたフランス人医師が1人で復讐に臨む「追想」が傑作として有名ですが、この作品に触発されたのが皆さん大好きQuentin Tarantino監督「イングロリアス・バスターズ」日本でもヒットして世界で最も有名なナチス映画と言えるが、それはアメリカやイギリスの連合国の視点とも言える。推理小説の世界では「ポエティック・ジャスティス」詩的正義と位置付けられ、些か美談仕立ての作風は議論の起点と成る。連合国だって人殺しには変わりない。広島や長崎の人達が、戦争が正義とは誰も思わないだろう。それは空襲の無かった私達、京都人も思いは同じだ。

「ヤル側のナチスが狩られる側に為る」リバース・クエスチョンが本作のプロットだが、「Based on a true story.」と史実の矛盾が交錯して自滅してる様に見えた。史実の真相に切り込むには事実関係の確認が不十分で無理が有る。「目には目を歯には歯を」の正統性を問う点は踏み込み不足ながら描けてる気はするが、映画としては実直なドラマか?、犯罪を描くスリラーか?、イングロリアス・バスターズの様にエンタメか?、作品のアイドリングが不安定で、観客が戸惑い置いてけ堀りを喰らうのも道理。

女性メンバー、アンナの台詞が印象的だった「裁判に依る正義を待つ時間はない」。報復に依る報復は報復でしかない、現在のウクライナ情勢を見ても無限の連鎖を止める事は中々難しい。だが、誰もが血を流さず合法的に復讐を果たす方法は有る。それこそが「裁判」。人道的に許されないナチ戦犯の行為は、情勢が成熟した1980年代にやっと動き出す。そしてレビュー済「コリーニ事件」で明らかに成った法の不備を正し、過去の戦争犯罪への「正義」は実を結んだ。私は復讐と正義の対立軸を明確に描けば、新たな問題提起として傑作に成り得たと思う。本作は復讐行為を否定する映画では無いのだから。

マックスが導き出した「最強の復讐方法」、大切な何かを失った時に思い出して欲しい。