EDDIE

かばのEDDIEのレビュー・感想・評価

かば(2021年製作の映画)
4.7
熱く心優しく成長を止めない教師。
常に生徒最優先の蒲先生を主役に据え、新米教師加藤先生が主役級に光る。
教師、生徒、親、元教え子と多種多様なキャラが入り乱れながらもバランスの良い背景描写は川本貴弘監督の手腕か。
とにかくキャラ全員が好きになる!

主役の蒲先生を演じるのは、映画『初恋』で沖縄踊りを披露していた山中アラタ。
ここ最近映画の主演や主要人物としての出演も増えており、ますます楽しみな俳優さんです。
そんな彼が演じる蒲先生は1980年代に実在した教師。
熱血教師と言ってしまうとお粗末なぐらい、とにかく生徒想いで教師という職業をもっと良くしていきたいと奔走する人物です。

熱血さでいえば金八先生やGTOの鬼塚先生、スクールウォーズの滝沢先生なんかが頭に浮かびますが、あえて“現実的”という言葉を使うならばこの映画の蒲先生は決して負けてません。

人間は誰しも不完全。それは教師だって一緒。彼らも人間なわけです。
聖職者という言葉を使われがちですが、彼らの一人一人も普通の人間なんです。
不完全だからこそ、試行錯誤しながら子どもたちと向き合い、自分たちも成長していくんです。

劇中に印象的な言葉がありました。

“子供のことわかってると思ったらもう教師は終わり”

つまりは子どものことを完全に理解することはできない。だから向き合って会話してわかり合うように努力するわけです。

そして、蒲先生のそばで切磋琢磨しながら成長する、新任教師の加藤先生が本作におけるもう1人の主人公。
1985年が舞台、土地柄としても荒れた大阪の西成区ということもあり、生徒も不良がいっぱい。
タバコ吸うやつも、シンナー吸うやつも、ケンカに明け暮れるやつも、校内で風俗的な商売するやつも、問題児ばっかりです。
加藤先生はそんな彼らにいきなり楯突かれ、敬遠され、どやされ、自信を喪失してしまうのです。

このあたりまではあらすじに書いてあるわけですが、彼女加藤先生がとあるきっかけで自信を取り戻し、教師として人間として成長を見せていきます。
そこに本作のカタルシスがあるわけです。笑いもあります。

さらにこの2人のほか、教師も個性的な人たちが出てくるし、生徒も多種多様なキャラが次々に出てきます。
キャラクターがたくさん出てくる映画はそれだけで楽しいってのもありますが、その弊害として誰が誰かわからなくなることです。
個性ばかりに目を向けても、同じようなキャラがいればイマイチになるし、たくさん出てきたけどキャラ描写が薄いせいで何が見せたいのかわからないこともあります。
ただ深掘りしすぎると、映画には90分〜140分程度の尺の制限があるので、時間配分が難しくなり、結局時間の都合で深掘りできなかったキャラクターの存在意義が薄れてしまうこともあります。

その点で本作は各人物のキャラ描写の掘り下げが絶妙で、とてもバランスが良いのです。
大袈裟でも何でもなく、登場人物みんな好きになってしまいます。

喧嘩っ早い転校生の良太の家族たちなんて、最初はめちゃくちゃなやつらかと思わせられるんですが、蒲先生が見事その試練を乗り越えていくわけです。

そうそう、一人一人の生徒との問題解決の手段も見事でした。
とにかく学園ものは生徒との対話を大事にする大義名分ばかりで、現実的に「そんな上手くいかんやろう」と思わせられることも珍しくないのですが、本作では本人ばかりでなくその身近な人たち、つまり外堀から攻めていくという手法を使っていきます。
ある意味、ビジネス的なセオリーですよね。相手の営業部長を落とす前に、たとえば受付の人を味方につけるとか、そんか常套手段を見せつけてくれるのです。

作中は何度も笑わせられるぐらい、コメディ要素も絶妙に絡んでくるし、中学生たちの友情や絆の深め合いを見せられて目頭が熱くなる場面も多々ありました。

現在は新宿のK'sCINEMAのみの上映ですが、8月からはアップリンク吉祥寺、横浜ジャック&ベティ、名古屋シネマテーク、大阪十三の第七藝術劇場、アップリンク京都で順次公開予定のようです。

https://kaba-cinema.com/theater/

年間ベストにも絡みそうなぐらい気に入った作品なので、もっともっとたくさんの人に観てもらって上映館ももっともっと広まったらいいなぁと願っています。
フォロワーの皆様、本レビューを読まれた皆様で興味持たれた方は是非ともご覧ください!!

※2021年新作映画104本目
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