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かばの小のレビュー・感想・評価

かば(2021年製作の映画)
4.5
ド直球の泣かせるファクツ満載。それでも感動の押し売りみたいに感じないのは、それらがほぼ事実に基づくリアリティーによるものなのだろう。

大阪市西成区の公立中学に実在した教師、蒲益男(かば・ますお)の日常を描いたドラマ。被差別部落が隣接する同校は、劇中の生徒に言わせると「部落、在日、沖縄しかいねぇんだよ」(語尾はうろ覚え)。

家庭に問題を抱え、しんどい思いをしている子どもたち。そんな子どもたちに対して、教師と生徒としてではなく、人と人として真摯にかつ、決して突き放すことなく、悩みながら、悔やみながら、辛抱強く向き合い続ける、かば先生。その姿勢は在学中、問題のないように見えた卒業生にまで及ぶ。

アツいことを言ったり、英雄的な行動をしたりして、生徒と抱き合ったりするわけではない。ただひたすら、会いに行き、様子を伺い、話を聞き、世間から守り、居場所のきっかけを作ることを繰り返す。

むしろ臨時教員として赴任してきたチャーコ先生のほうに熱血先生のようなドラマがあるけれど、チャーコ先生も生徒とぶつかり、かば先生のように成長していく。教育というより、子どもとの関係、いや人間関係は本来、かば先生のようなあり方なのかもしれない。

映画を見て涙することがめっきり少なくなったけれど、バスの運転手さんの振る舞いに泣いてしまった。それは多くの日本人が持っているはずの、思いやり、優しさを端的に感じたから。それに共感しつつ、尊く感じたから。

思いやり、優しさを持った人が周りにいてくれることが、どんなに幸せなことか。2010年5月、58歳で亡くなったかば先生の葬儀には、教え子だけでなく、世代や職業を問わず300人を超える人々が参列したという。ひょっとするとこの地域だからこそ、いい人もたくさんいて、人と人とが心からつながることができるのではないかという、ある種の羨ましさすら感じてしまう。

大阪特有の雰囲気だろうか、どんよりと暗すぎる感じはなく、笑える場面もある。商業的には多くの人に見る機会を提供するのは難しいのだろうけれど、個人的にはテレビドラマ金八先生の「世情」が流れた回よりも心に残る物語だった。
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