chunkymonkey

ディア・エヴァン・ハンセンのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

4.0
普通によかった!=失敗作だったということです。ベン・プラットを筆頭に美しい歌詞とメロディにのせた歌唱は皆、信じられないくらい素晴らしかった。ミュージカル映画史上最も優れた歌唱と言っていい。にもかかわらず、普通によかったという感想になってしまいました。

格差社会、SNS時代の孤独をテーマに大ヒットしたブロードウェイの青春ミュージカルの映画化です。主人公は高校生のエヴァンで社会不安症。セラピーの課題で自分宛の手紙を書かされるのですが、これが次々と勘違いとウソを生み、幸せと絶望をローラーコースターのように味わう日々が描かれます。

計画段階でコロナ渦に見舞われたものの、人々が孤独を感じる今だからこそこの映画が必要と、フェイスシールド、マスク、ゴーグルと完全防備で撮影が強行されました。Youtubeに撮影風景が上がっていましたがめちゃくちゃ大変そうです。ミュージカルらしいシーンがないのはコロナ渦の制限のためと言われています。お部屋の中で小さくまとまる史上最も地味なミュージカル映画。ただ、歌は素晴らしいのでそこは気にならなかったです。

とにかく総集編感がすごくって、ぶっ飛ばしてます。ものすごい勢いで話が進んでいくので、劇場は場面が切り替わる度に"Oh my god," "Nooo!," "Shit," "Wow," "F*ck..." とある意味すごい盛り上がってました。予告編の印象と異なり結構笑えます。そんなこんなで劇場は盛り上がったのですが、じんわり味わう余裕は全くなくて、誰も感動はしてないなという印象でした。

何が起こったのか結果だけが次々に提示され、その度に強い感情は呼び起こされるのですが、そこに至る過程や思いが抜けていて点と点がつながらず、映画全体としてみたときに登場人物に共感したりやストーリーに感動するのが難しい。ストーリーや主人公の人物設定の問題は舞台版から強く指摘されていたようで、舞台では歌を乱発した非日常感でカバーしていたのが、映画化で現実的な描写になると誤魔化しきれなくなっているのかも。もう少し丁寧に描いてほしかったが、ここら辺は上映時間的に映画化の限界かな。

大物プロデューサーである父の縁故採用と囁かれる初代エヴァン役のベン・プラットが高校生に見えないのは前評判通り。メイクがちょっと... 多分ひげ隠し?バカ殿かっていうくらいの白塗り。高校生に見えないならじゃあ大学生に見えるのかというとそういう問題ではなく、もはや異生物(笑)。逆にそれがコミカルで個人的にはアリだなと感じました。

あとは、多分監督が元のミュージカルのテーマとメッセージを誤解していて精神疾患を強調しすぎてます。本来はテーマ「社会的孤立」メッセージ「あなたは一人じゃない。ありのままのあなたに手を差し伸べてくれる人がいることを忘れないで。」ですが、テーマ「精神疾患」メッセージ「精神疾患から脱却するにはありのままの自分を受け入れよう」になってる... メインの楽曲である"You Will Be Found" の歌詞の偉大さが薄れた物語のまとめ方で、終盤の展開はウォールフラワーに酷似。

名曲揃いです(邦題は私のテキトウな創作)。Anybody Have A Map? (うちの子ヤバ子) はカットされていて、冒頭いきなりWaving Through A Window (コミュ障の叫び) から始まりました。完璧にコントロールされたベン・プラットの歌声で映画開始30秒で泣きそうに。で、エヴァンの思いに胸が熱くなり心の中で一緒に「うぇ~び~ん」と絶叫。いや、ちょっと声が出てたかも。For Forever (空を眺める俺たちマブダチ) は一番好きな歌。美しい歌詞とメロディ。自然の中で腹心の友と過ごす歌詞はエヴァンの願望そのもの。Sincerely Me (メール捏造大作戦!) は歌も映像も楽しくこの曲だけは多少ミュージカル映画っぽい。ジョークも交え躍動感のある歌とダンスで最高。テーマソングともいえるYou Will Be Found (きっとひとりじゃない) は疑いようもない名曲。

まとめ:普通によかった。決して悪い映画ではないです。歌は神レベル!でもゆっくり味わいたかった。感動し損ねた感が強い。

ちょっと知っトク?
・冒頭のユニバーサルのロゴ表示音楽がWaving Through A Windowの伴奏。
・エヴァン君が履いてるグレーのニューバランスはブロードウェイで使用されていたものと同じでベンの私物。
・ブロードウェイの初代エヴァン(ベン)と2代目エヴァン(ノア)は長年友達でしたがふと火がついちゃったらしく(笑)なんと現在交際中。映画の宣伝でテレビに出るたびに話題に出して仲良しぶりをアピールしています。
・年齢に不相応な配役はエヴァンだけではありません。還暦なジュリアン・ムーア演じるエヴァン母も一応「若ママ」という設定です。

※9/25 皆様から頂いたコメントや公開後のレビューを参考に、多少わかりやすくなるよう少し整理して改変しました。