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渇きと偽りのナーオーのレビュー・感想・評価

渇きと偽り(2020年製作の映画)
5.0
クライム・ミステリーの新たな傑作!

『ブラックホーク・ダウン』
『ミュンヘン』
『ハンナ』
『NY心霊捜査官』
などのエリック・バナが約12年ぶりに母国オーストラリアの映画に出演。

鑑賞前はドゥニ・ヴィルヌーブ監督の『プリズナーズ』や『ボーダーライン』みたいな雰囲気のクライム映画かな〜と想像していましたが、どちらかと言えば『ボーダーライン』の脚本を手掛けたテイラー・シェリダンの監督作『ウインド・リバー』やHBOの傑作ドラマ『トゥルーディテクティブ』に近いクライム映画でした。

本作『渇きと偽り』、原題『The Dry』はいわゆるドンデン返しを売りにしたミステリー映画ではありません。ある刑事が生まれ育った田舎町を戻り、そこで事件に巻き込まれるというストーリーも王道。

だから"地味で物足りない"という意見も多いようですが、本作の魅力は一年近く雨が降らず、干ばつに襲われたオーストラリア。その土地に生きる人達を描いた人間ドラマだと思います。

舞台となるオーストラリアの田舎町は雨が降らないことによっては川の水は干上がり、文字通り何もかも渇ききっており、住民たちも希望を失い、どんよりとした暗いムード。故郷に帰ってきた主人公はとある"過去"が理由で歓迎されるどころか、全員から後指を指されている。この閉鎖的な田舎町特有の嫌〜な雰囲気は少しテイラー・シェリダン作品を想起しました。

確かに派手さはなく、全体的にはスローでゆったりとしたテンポなのて、退屈と感じる人も少なからずいるとは思いますが、主人公と町の住民たちとの関係性や主人公が町を出ることになった過去の出来事、そして本筋となる事件など、一つ一つとても丁寧に描かれているからこそ個人的には全く退屈することなく鑑賞できました。

全然スッキリしないラストも賛否が分かれるところだと思いますが、『ウインド・リバー』に近い、どこか希望を感じる、切なくもどっしりとした余韻が残る素晴らしいラストでした。

俳優陣も全員良かったです。

主演のエリック・バナは言うまでもなく素直にめちゃくちゃカッコいい。

また過去の出来事を理由に主人公を目の敵にしている町のトラブルメーカーを演じるマット・ネイブル。この絶妙なボンクラ感が素晴らしい。ちょっとスティーヴン・グレアム似の良い感じに汚れた俳優でした。

あと本作で一番重要なエリーという少女を演じるべべ・ベッテンコートも素晴らしかったです。彼女が劇中で歌う「Under The Milky Way」という曲。

映画中盤とエンディングで流れますが、エンディングで流れる時にこの曲がより切なく響く。正直ちょっとウルっと来ました。

本作の続編小説『Force of Nature』の映画化も決定して、ロバート・コノリー監督も続投するみたいなので、是非エリック・バナも主人公フォーク刑事役を再演してほしい。
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