タケオ

パンケーキを毒見するのタケオのレビュー・感想・評価

パンケーキを毒見する(2021年製作の映画)
2.7
 まるで「バラエティー番組」のようなつくりには少々面食らったが、本作が「バラエティー番組」のようなつくりとなっていること自体が、日本という国が「映画」という媒体を用いることでしか「政治風刺ドキュメンタリー」を制作することができない不健全な状況に陥っている何よりの証拠だといえるのかもしれない。そう邪推したくなるほどまでに、今の日本という国は「終わっている」・・・少なくとも僕はそう思っている。
 本作は「パンケーキおじさん」こと第99代内閣総理大臣 菅義偉の素顔に迫った政治風刺ドキュメンタリーである。「政権批判目的のパヨクのプロパガンダだ!」と非難する声もあるようだが、菅義偉の過去の功績にもしっかりと触れるなど、ある程度はフェアに描かれていたと個人的には思う。むしろ、どうせやるならもっとプロパガンダ的であってもよかったぐらいだ。政治ドキュメンタリーを制作するうえでプロパガンダ的な側面が浮き出てくるのは至極当然のことであり、むしろ「この映画はプロパガンダではないですよ~」と自ら宣言して憚らない腰の引けた作品のほうがよっぽど「欺瞞的」だ。そういう意味でいえば本作は「欺瞞的」な作品では決してないが、グアルティエロ・ヤコペッティやフレデリック・ワイズマンの作品などと比べれればこの上ないほど「お上品」で「お行儀の良い」ドキュメンタリーである。やろうと思えばもっと辛辣で悪意に満ちたドキュメンタリーにすることも可能だったはずだし、僕はその点で本作にはかなり不満である。
 とはいえ、ジワジワと浮かび上がってくる菅義偉という男の「空っぽさ」には驚かされるばかりだ。菅義偉には「ビジョン」というものがまるでない。菅義偉が政治活動を行う上で大切にしているものは、どれだけ多く見積もったとしてもせいぜい3つ程度しかない。それは「権力」と「権力」、そして「権力」である。どれだけご立派に取り繕ったところで、中身自体はすっかすか。「パンケーキおじさん」とはよくいったものである。大した「ビジョン」もないくせに、「権力」を掌握することだけには異常に執着をみせる性根の腐ったアホが国のトップに立った結果、辟易とした国民が政治への関心を失い、腐敗だけがどんどん加速していく。今の日本が抱える根深い問題を、本作は軽妙なタッチで炙り出していく。全体的に食い足りなさを感じなくもなかったが、その食い足りなさこそが、菅義偉という男の「空っぽさ」を如実に物語っているともいえるだろう。そもそも所信表明演説で「私が目指す社会像は、自助・共助・公助、そして絆です」などと責任放棄にも等しい空っぽなスローガンを掲げるようなアホに、中身を期待する方がどうかしている。第98代内閣総理大臣 安倍晋三ですら、曲がりなりにも「改憲したい」というビジョンがあっというのに・・・それもどうかと思うけど。
 本作は恐ろしく「笑える」ドキュメンタリーである。あまりにも滑稽で、愚かで、直視しがたいほどまでに腐敗した現政権の姿はまるでピエロ集団だが(おっと、ピエロに失礼だった)、そんなピエロ集団が国の舵を握ってしまっているという現実があまりにも狂いすぎていて、思わず笑えてくるのだ。いっそのこと『タクシードライバー』(76年)のトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)のように、頭をモヒカンにしてS&W片手に官邸に殴り込みでもかけてやろうかとすら思う今日この頃である・・・というのは冗談だが(そんなことをしたら米議事堂に侵入したQアノンと同じだ、絶対にダメ)、それほどまでに今の日本は「終わっている」。しかし、僕たちにはまだ「選挙」という公正な機会が残されているということを忘れてはならない。腐りきった愚劣なクズどもに突きつけるべきはS&Wではなく、国民ひとりひとりに与えらた「一票」という名の強烈な一撃であるべきなのだ。
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