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裁かるゝジャンヌのTSのレビュー・感想・評価

裁かるゝジャンヌ(1928年製作の映画)
3.6
【処される英雄】77点
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監督:カール・テオドア・ドライヤー
製作国:フランス
ジャンル:歴史
収録時間:96分
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全編ほとんどが人物の顔のクローズアップという異色作。実際に発見された史料を元に、ドライヤー監督が製作したジャンヌダルクの異端尋問劇です。ジャンヌダルクが裁かれ、最後に火あぶりの刑になるまでの過程を淡々と描いています。どうやら、いくつものバージョンがある模様で、フルバージョンを見たことがある昔の人は少ないようです。賛否はまちまちですが、今もなお映画史に名を残している作品です。バージョンによって音楽が違うようです。僕の見たバージョンは、なんというか気が狂ってしまうほど同じ曲調のものでして、それ以外にも賛美歌のような眠たくなってしまう曲調もあるようです。

クローズアップにより、人々の表情が鮮明に映し出されます。特にジャンヌダルク役を演じるルネ・ファルコナッティの表情が力強かったです。権力に対して抗う表情、全てを悟ったような悲しい表情。背景など無用でして、彼女の表情がその全てを物語っていました。また、異端尋問をする裁判官たちの表情もユニーク。彼女に怒鳴りつけるシーンなども、巧くモンタージュを駆使しています。距離感は掴めませんが、間違いなくその視線の先に対象がいるのだということを確信出来ます。

ジャンヌダルクはイギリスとフランスによる百年戦争で活躍した人物です。勝利を収めたのですが、イギリス側に捕らえられ、辛くも火あぶりの刑に処されてしまいます。彼女の死後、彼女の無実や殉教が認められ、現在聖人とされています。しかし、今作は彼女の聖人ぶりを描いているわけでなく、ひとりの裁かれる女性として描いているのが特徴です。火あぶりの刑が恐ろしくて神を裏切るという人間の弱い部分を見せたりします。世に名を残している伝説の英雄というのもやはり人の子。後世において美談として語られることが多いですが、それはミスリードである場合が多いようです。

恐らくかなり退屈な映画になるかもしれません。何故ならサイレントですし、顔のクローズアップばかりですから。しかし、いよいよ火あぶりに処されるとなったシーンからは不思議と釘付けになります。当時の民衆も、そういう興味本位で彼女の死に際を目の当たりにしたのでしょう。彼女を纏う残火が未だに脳裏に焼き付いています。
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