あゆみ

東京クルドのあゆみのレビュー・感想・評価

東京クルド(2021年製作の映画)
5.0
監督が、在日クルド人の青年に将来について尋ねたところ、「シリアに行ってIS(過激派勢力イスラム国)と戦いたい。日本で暮らしていても希望がない。生きている価値を感じられないから」という答えが返ってきた。その場にいた10代の若者たちの多くが賛同。その時の言葉にならない衝撃が、本作を制作するに至った動機という。

仮放免は入管での「収容」を一時的に解かれた状態と指す。就労は許されず、生活保護も受けられず、健康保険も適用されない。居住する都道府県外への移動も制限される。2ヶ月に一度など、仮放免許可の期間を延長する申請のために入管へ「出頭」しなければならない。
そしてこの仮放免許可は、ある日突然、明確な理由も告げられぬままに取り消されるおそれがある。理由のない収容には、期限もない。

真摯に今を生きようとする人に「生きる価値がない」と感じさせてしまう日本の入管法。私たちの無知が、非人道的な今の制度に加担していることに自覚的でなければと本当に思わされた。
難民認定率が1%以下の日本で、いつ捕まる(収容される)かわからない不安を抱えながら生きていくというのはどういうことか。
一人でも多くの人に観てほしい。

「在日クルド人と共に」主催の世界難民の日に合わせた上映会にて。


クルド人の「祖国」は歴史的にクルディスタン(クルドの国)と呼ばれるトルコ、シリア、イラク、イランにまたがる山岳地帯。
現代にいたる「クルド問題」の起点はオスマン帝国領の分割。第一次世界大戦によって多民族・多宗教が共存した帝国が崩壊し「民族の時代」が幕をあけた。トルコ共和国が誕生し、帝国の領土だった地に多くの国が「民族自決」の大義のもとに独立。
戦後処理のためのセーブル条約はクルドにも将来的な独立を認めたが、続くローザンヌ条約でクルディスタンはトルコ、シリア(仏の委任統治)、イラク(英の委任統治)に分割され、4カ国に分断されることになった。国境線が、古来連綿と続いてきた人間の営みを寸断した。
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