青二歳

朝の波紋の青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

朝の波紋(1952年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

英語で銀行家に融資を交渉するアコ・高峰秀子。半平太・池部良の毛布獅子舞は今じゃ通報案件だな。もう“子供好き”というキャラクターは21世紀には通用しなくなってしまった…
作者の高見順が撮影現場に来たらしい。抗生物質ストレプトマイシンの輸入や工芸品の輸出などに奔走する商社がロマンスの舞台。商社にキャリアウーマンにイケメンサラリーマンのロマンス、さらに男はカヌー部OBとしてスポーツにも積極的。要素を切り取ると90年代トレンディドラマとそう変わらないが、決定的に違うのは高峰秀子の間の取り方だろうか。
周りの男たちの悪意のない何気ない言葉について高峰秀子の嫌悪感と好感が、彼女の一瞥で表される。池部良が恋人が戦死したビルマを知っていると聞いて親近感を抱き、彼を見る目元が柔らかくなる。同僚・梶という男は悪いやつではないのだが、実は無神経なところがあると気付いた時、軽蔑や警戒を抱くのか、高峰秀子の眼差しが一瞬で険しく翳る。
お話は特別おもしろくはないんだが、というのも、キャスティングから主役と当て馬が明確だから大体の見当がついてしまうからそこまでハラハラできない。でも高峰秀子の表情の変化がとても見応えがあって飽きずに観れる。この辺は五所平之助らしいカットでしょうか。
滝花久子や浦辺粂子なんかはいつも良いですね。脇役もよかったです。

登場人物の多くが身近に戦死者がいて当たり前で、さらっと語るその語り口に心が痛む。52年だとGHQの検閲がなくなる頃なので、“本日休診”('52)といい、前を向きながらも"実は戦争を引きずりながら戦後を生きる人々"が描かれるのかもと思う。50年くらいまでは前向きの部分が強調されている作品が目立つけれど、喪失の痛みは戦後7年経ってもなお続いていて、こんな青春映画にも戦争の痛みがあるんだと痛感。

アプレって本当に言うんだな〜と思いつつ、そうした流行語よりも原作オリジナルであろうコンコンチキとか劇中の言葉遊びが楽しくて素晴らしかった。
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