ロアー

グレート・インディアン・キッチンのロアーのレビュー・感想・評価

5.0
界隈で話題になっていて絶対観たかった「グレート・インディアン・キッチン」がついにわが県でも上映!初日に観てきました。

これは間違いなく2022年一番の衝撃作になりそう。ここ最近アメリカ映画を中心にフェミニズム映画が増えてきているけど、強い女性たちが男性優位社会を蹴散らすような内容の作品が多い中、簡単に言ってしまえば今作はひとりの平凡な主婦の日常をそのままリアルに描いているだけなのに、なんていうかフェミニズム映画としてすごく"本物"という感じがしました。

毎日の料理や食卓の様子、家の掃除や洗濯、義実家との関係。
描かれているのは本当にありふれた日常のできごとにも関わらず、妻目線でその日常を観ているうちに思わず発狂しそうになりました。
この映画に出てくる男性陣、友人の旦那を除いてみんなう〇んこ製造機過ぎる。あまりの激怒に殴りかかりそうにでもなったのか、無意識に手が動いてしまって自分でもびっくりしました。

もはやモラハラなんて言うレベルを超えて、妻の人間としての尊厳を奪う精神的殺人としか思えなかった。自分では何もしない・何もできない癖に感謝すべき相手に平気で文句を言い、やってもらって当たり前としか思っておらず、それらを悪気がないどころか自分は妻思いの良き夫・嫁を実の娘のように扱う良き舅だと思い込んでいるところがなお悪い。
同じことを経験してきた筈の姑や叔母ですら「この家では昔からこうだから」「これはしきたりだから」「私も昔からずっとやってきたことだから」と嫁に奴隷のような生活を強要する。これって虐待の連鎖と何が違うんだろうか。

インド映画なので宗教儀式も度々出てくるんだけど、これは日本でいうところの家や地域のしきたり・慣習に容易に置き換えて観れるし、ひとりの人間をここまで傷つけておいて何が宗教だ!何が神だ!と怒りで涙が溢れてきました。

人間としての尊厳をすべて奪われ、”キッチンと言う名の牢獄”というキャッチコピー通り、キッチンや家に縛り付けられ、外で働くことも許されずただただ夫や舅に奴隷のように尽くさなければならない妻。彼女に比べたら囚人の方がよっぽど人間らしい扱いを受けているようにすら思えてしまう。しかも囚人と違って彼女は何も罪を犯してなどいなくて、ただ女性として生まれ、結婚した、それだけなのに・・・
彼女が特別不幸な境遇という訳ではなく、同じように(場合によっては無自覚に)虐げられている女性が、ごく普通に世界中に溢れていると思うと本当に辛くなる。

こんな風にフェミニズム映画について熱くなると、同じ女だからってなんかギャーギャー騒いでいて鬱陶しいと思われがちだけど、むしろこの映画に関してはフェミニズムというより奴隷解放を支持しているような心境だったし、これが例えば男女の立場が逆の映画だったとしても同じ熱量でギャーギャー騒いで同じように「この映画の女ども全員う〇んこ製造機」と言っていた筈だということも誤解しないで欲しい。
女性だろうが男性だろうが、ひとりの人間としてこんな扱いを受けて言い訳がない。こんなことがまかり通っている世の中は確実に間違っている。

世界に向けて女性の権利を主張することも確かに大事だけど、その前にコミュニティの最小単位である家庭の闇にまずは目を向けるべきじゃないかと気づかせてくれる最後まで隙のない映画でした。
本気で男女平等や男女共同参画を学ばせたいなら、(全然エッチじゃない性描写もあるので)せめて自分のことは自分でできる高校生くらいから全員にこの映画を観て真剣に自分の家庭のこと、そしてこれから持つかも知れない家庭のことを考えてみて欲しいと強く思いました。
ロアー

ロアー