本当の悲劇は身近な生活の中に
凝ったストーリーを作らなくとも、劇的な瞬間はごく身近な空間に存在しています
それを丹念に拾っていけるか
松山善三はそれが恐ろしく上手い人でした
悲劇を見通す冷徹な目
何気ない日常のなかに救いのない展開が次から次へ訪れます
支店長の縁談を断り、自分の好きな人を妻に貰おうとしたばっかりに、親とは絶縁、勤めていた銀行で喧嘩し辞職、失業の身に
折しも不況の時代、荒んでいく夫婦の間、自分のプライドがズタズタに引き裂かれます
結局問題はひとつも解決せずに終わります
経済的余裕がなく子供も持てない状況まで明らかにされてしまいます
が、最後に二人の間に自己責任の思いが芽生えます
自由に生きるならその責任も自分たちで引き受ける
人間としての成長です
ここからさらに背負いきれない悲劇を重ねていくのが松山善三の本領ですが、この映画はそこまではいきません
スカッとする映画ではありません
あっというストーリー展開もありません
ですが、生活や心理がきめ細やかに描かれています