Jeffrey

わんぱく戦争 デジタルリマスター版のJeffreyのレビュー・感想・評価

4.0
「わんぱく戦争」

〜最初に一言、傑作。原題の「ボタン戦争」を皮肉にも核のボタン=大人の戦争として捉えたており、原始戦から近代戦へと進歩の過程をたどって行く模様は、正に世界核戦争を映し出した紛れもない傑作である〜

本作はゴーモンが配給し、ルイ・ペルゴーの「ボタン戦争」を原作にイヴ・ロベールが1962年に監督したフランスの名作で、この度国内で初BD化され購入して久々に鑑賞したが本格的なバイオレンスが写し出されるにもかかわらず、それを喜劇的に描いているのがやはりよ面白いなと改めて思えた。この作品は数ヶ月前に言う劇場公開もされていたが、ブルーレイで発売されると思っていたので我慢していたが、発売されて良かった。数々の70ミリ映画を抑えて、パリで当時1番観客を集めている映画が、この子供の集団の喧嘩をユーモラスに描いたもので、確か封切られてから、30週間に70万人以上が鑑賞し、ロングランを続けていると言う大ヒットぶりだったと思う。

物語の主人公は緑に恵まれた自然の中で、ことごとくに喧嘩ばかりをしている2つのグループの子供たちで、無論ノーススターの、7歳から13歳までの100人ほどの子供ばかりである。一方のわんぱく大将が考え出した敵の捕虜への刑罰、つまり男として1番に大切な名誉を奪うために、服や下着のボタンをすっかり剥ぎとってしまったことから、両軍の間に、ボタンとりっこの激しい戦闘が開始される。ところがその後ご当人の大将まで捕虜になるや、彼は新たにボタンを取られないための作戦に、真っ裸で敵陣を急襲して大勝利する。敵の大将のパンツをぶんどって旗印に立て、勝利の行進曲を歌いながら、意気揚々と両軍の斗いはついに馬やトラクターまでかりだしての大激戦といった具合に、彼らの思いついた自由奔放で愉快極まる喧嘩作戦の数々が次々と繰り広げられる。

緑の森や野原、魚釣りをする小川に囲まれた大自然の中で、生々と跳ね回る子供たちの姿に大人は過ぎ去ったよき子供時代への郷愁を、子供たちは本物の彼ら自身の姿に大喜びしながら、その中に含まれる現代社会への鋭い文面批判が、観客を感動させるものになっている。原作はゴンクール賞受賞作家で、1911年に描いた小説。それを舞台俳優出身の監督が作り出し、この映画を制作するために、俳優の妻、ダニエルの協力を得て、自分の別荘を抵当に入れて資金を作り、全くの独力で完成させたものである。さて、物語は南フランスの隣り合った2つ村、ロンジュヴェルヌとヴェルランの子供たちは、いつも睨み合っていた。それぞれの大将はルブラックとラズテック。戦場は村の境界にある砂地の原っぱで、戦利品は相手の服のボタンだ。

ある日の戦いに負けてボタンを奪われてしまったルブラックは、家に帰ると親に大目玉を食ってしまう。今度は何とか無償で勝ちたい。そこである妙案を思いつくのだった…と簡単に説明するとこんな感じで、美しい自然に囲まれた南フランスの片田舎で、今日も悪ガキたちがわんぱくMARCHに乗って戦争ごっこに明け暮れる物語を描いた心優しい作風である。いくつもリメイクされており、それこそまだ円盤化されてないイギリス映画の「草原とボタン」はVHSで持っているほどだ。フランスの国民作家の小説を舞台俳優出身の監督が「禁じられた遊び」のシナリオ書いたフランソワ・ボワイエと共同で脚色した作品で、南フランスの田舎の風景をバックに軽妙な感触で描かれる子供たちによる戦いは、当時のフランス社会を面白おかしく風刺していく。

日本も含め世界中でヒットし、その後も各国でリメイクが作られるなど人気を博した。出演者100人の子供たちは演技経験の全くない素人だったが、元気が増える自然な芝居で世界中の観客を魅了したとの事。中でも愛くるしいキャラクターちびジビュスの口癖「嫌になっちゃう、こなきゃよかったよ」はフランスではあまりにも有名な流行語となったそうだ。そんな名作が製作は60年の時を経て、デジタルリマスターされたと言うのだからファンにとっては嬉しい話だ。今回のBDには日本語吹き替えも入っていて、小林由美子さんが担当している。いじめっ子がもし友達になったらそれは最後まで友達になる正真正銘の友人だ!と言う言葉があるように、この作品のクライマックスは本当に素晴らしく傑作を見たな、と思うえる素晴らしい気持ちになる。

とにかく子供たちの可愛らしさや笑顔、悲しい表情全てがいとおしい映画で、基本的に子供たちにフォーカスしているが、時折大人たちの世界も捉えている。裏切り者、先生、親たち、そして小動物までが巻き込まれるキッズたちによる戦争の行く末は悲喜劇的で余韻が残る。確か、ヴィゴ賞を受賞していたと思うが、どこかしらクライマックス場面はジャン・ヴィゴ映画を懐かしむ感覚に包まれる。今思えばオリジナルタイトルがボタン戦争と言うのは結構な皮肉だなと感じる。21世紀になっても核兵器のボタンを押すか幼いかのボタン戦争が繰り広げられているからだ。それでもこの映画のボタン戦争と言うのは、子供たちが行うもので、そこには死と言うものが一切ないのだ。

むしろ生きる喜びが詰め込まれており、しかし、きちんとした作戦があり、その作戦は原始戦から近代戦へと進歩の過程をたどって行ったりする。だからオープニングから数分経った頃に敵側の家に夜な夜な潜入するシーンは、まさに東西冷戦、ロシアと米国、フルシチョフとケネディーといった具合に、スパイ作戦が描かれていると感じる。そもそも初めに切って売りの販売拡張から始まるのは、経済戦争と置き換えることも可能だ。それにクラスでリーダーの少年が居残りさせられてしまい、軍隊の指揮官がいなくなれば、命令は成功に至らないので、その次の指揮官その指揮官がダメならば次のときちんと次の指揮官が置いてあるのも実際の戦争と同じである。

それに子供の戦争の中でも共和体制と全体主義が対立する場面もきちんと描かれている。それに軍用品を貯蔵するために作戦本部としてのお城が作られたりする。それもスパイによって裏切りの行為で本拠地が暴れてしまい奇襲にあったり、騎兵戦が行われたり、不意をつかれてしまって作戦が台無しになったり、敗戦による国内の混乱までもが描かれており、ここでこの作品が最も観客に伝えたいものは、この子供の戦争が終わって、各自それぞれ自宅へ戻って、大人(親)に叱られて終わるが、果たして大人が始めた戦争は誰が止めて誰が折檻するのかを説いているように感じてならない。そしてクライマックスの〇〇と〇〇の抱擁はまさに国と国同士の〇〇だろう。長々とレビューしたが、少年時代へのノスタルジーを感じさせるような人間的なものを、これほど鮮やかに描き出したこの作品に拍手を送りたい。そして子供たちにも。
Jeffrey

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