藍紺

英雄の証明の藍紺のレビュー・感想・評価

英雄の証明(2021年製作の映画)
3.8
恋人のファルコンデが金貨を拾っていなければ、主人公である囚人ラヒムは刑期を無事勤め上げて出所できていたに違いない。彼が囚人でなければ、マスコミに取り上げられることもなく、ちょっとした善行をしただけで終わっていたに違いない。彼の善行がメディアによってイラン全土に報じられ、それを見た善意の人たちが彼を救いたいと思ったことが何故こんな顛末になってしまうのか……。しかし、その救いの手を差し伸べた人たちにもそれぞれに思惑があり、ラヒムを利用して自分たちの評判を高めようと画策している様子は否めない。様々な人の善意と打算が重なってラヒムの人生の舵が自らの想いとは全く違う方向に切られていく……。それを見ている観客である私もただの傍観者でいていいのかと、とても居心地が悪くなってしまった。アスガー・ファルハディ監督は、こういう市井の人々の暮らしの中の物語を描くのが本当に上手い。明日は我が身、自分だっていつどうなるかわからない、他人事とは思えない話だった。神からの贈り物と喜んでいた主人公だったが、もしそうだとしたら、とんでもなく底意地の悪い神様だなあ。イランの人たちはこれを観てどう感じるのかとても興味が湧いた作品だった。
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