アメリカの田舎に住む人々の暮らしを活写。夢とか希望とかって言葉は空疎に響くような、その日暮らしの連続でしかない日常。その生々しさがよく伝わってくる。
ここまで、良い人がいないどころか良い行いすら出てこない映画も珍しい。”誰かのために頑張る”がひとつもない。みんな私利私欲のために生きている。倫理観はてんでなっちゃいない。でも決して悪人とは言えないし、実際、ここに出てくる人らのことを他人事として見ていられる人はどれくらいいるのだろう。。
みんなそれぞれに複雑な家庭環境や背景事情を抱えていたり、まともな仕事をしていなかったり。でもそれを感傷的に見せたりせず、サラりとした一言のセリフやワンシーンだけで処理していたり。
これまでのショーン・ベイカー作品と通じていながらも、それらよりもカラッとした印象が強い。これといったドラマが起きなければ情緒的な展開もない。様々な人間模様を見ているのが楽しい。
良い人（物分りが良い人）がいないと、物語の進行も単純なモラルテールとはいかず、どう進むのかがまったく見えない。最終的にも大したことは起きないのに、スリリングな2時間10分だった。
とはいえ完成度という点では「フロリダ・プロジェクト」ほどの、自然体なようで計算された演出や脚本等はあまり感じられなかった。ところどころ無造作に撮って出しただけな感じがしちゃったり。やろうと思えば90分くらいにもできたはず。
終盤のあのシーンでは思いがけず「ミッドサマー」を想起したり。。あんなの見ちゃうと問答無用で好きになっちゃうんだよな。。
