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レッド・ロケットのKKMXのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
4.0
 ド田舎底辺モノが観たくなり鑑賞。A24なのでめちゃくちゃ面白いわけではないですが、なかなか面白かったです。あの感じは底辺育ちの自分にとっては胸に迫り、結構切ないガーエーでした。ただ、この内容で130分は長く、短いカットが重なる作りは忙しなく、逆に冗長に感じました。後半までは結構シンドかったですね。


 零落したポルノ俳優マイキーは故郷テキサスに戻ってきました。そして、別れた妻(籍は残っているらしい)の家に転がり込み、葉っぱの売人として生計を立て始めました。ある日、ドーナツ屋でエロっぽい17歳女子ストロベリーと知り合い、マイキーはストロベリーをダシにして、再びポルノ俳優としてノシ上がろうと考え始める……という話。


 マイキーのクズ感は最高で、1ミリも同情できないレベル。利己的なトラブルメーカー気質は、狭いコミュニティで生きることは難しいでしょう。一方で、彼はペシャリが上手くルックスも良い。バイタリティーもすごいので昔からナオンにはモテたと思います。そう考えると意外と資本はある。そんな男が、この製油工場しかない荒涼とした田舎で、大資本に搾取されるだけの現在においてどう生きれば良いのかと考えると、身一つで上京してチャンスを掴みたいと思うのも無理ないと思いました。
 マイキーは絶対に貧困育ちで、ロクな教育を受けてないと思います。目先のことしか考えられない特性は、元々の認知能力が低いと言うよりも、未来を思い描いて積み重ねることを学べなかったと推察できます。あと、マイキーはおそらく愛情もロクに受けていないはずです。他者を金ヅルにしか見ない特性から、マイキーは愛を学べなかったと考えられます。サイコパスとも言えそうですが、目先の計算しかできず、実はさほど凶暴ではないマイキーは、サイコパスっぽいカリスマ性絶無ですけど。
 しかも、マイキーは成功体験があります。ストロベリーをダシにしようとする辺り、ああやってナオンを上手く利用してのし上がり、ポルノ俳優として成功したのだと思います。あのやり方が彼にとっては唯一の生き方であるのでしょう。40代くらいのマイキーが17歳のストロベリーをナンパするのは客観的に異様ですが、何故か意外と自然に思えました。

 マイキーにコマされて40男とヤリまくる17歳のストロベリーもリアルでしたね。結構美人で頭が良く(貧しいものの母親はストロベリーにピアノを習わせる等、教養をつけさせていることが推察されます)、自分に魅力があることをよく認識しています。しかし、彼女も底辺の貧困育ちで大学に行けるワケもなく、人脈もなくチャンスもない。そして、生半可に資質があるから田舎では浮いており友人もいない。そんな少女が、この製油工場しかない荒涼とした田舎で、大資本に搾取されるだけの現在においてどう生きれば良いのかと考えると、怪しいがどうも都会とつながりのありそうな中年男を利用して、この地獄から脱出するしかないと思うのも無理ないと思いました。


 なので、自分にとって本作は結構切ない話でしたね。マイキーもストロベリーもどうにもならない切実さがあって、グッときます。そして、マイキーの妻レクシーや隣人のロニーの哀しさもめちゃくちゃ痛い。中盤の一部ネタバレにはなりますが、ゴミ人間マイキーにレクシーの母が「アンタが売人で稼いでくれているおかげで、娘が安く体を売らなくてすむ。事故に巻き込まれるのではと思い、本当に心配だった。だから助かっている」と語るシーンはものすごく切ないですね。ホントに切ない。また、ロニーの軍歴詐称も切なすぎる。ロニーの惨めさはめちゃくちゃ切ない。

 一方で、ヤクの売人たちの元締め母娘はカッコよかったね〜!特に娘の方はマジでカッコよすぎ!無慈悲でクールで隙がなく、腕っぷしも強そうでシビれます。是非スターダムに参戦して詩美と戦ってほしい!


 映像の美しさとギャグの切れ味も本作の旨みでした。本作の背景となる製油工場の風景はなんとも荒涼としていて胸に迫りました。夜の風景なんかはホントに苦しいですねぇ。近景は俺が19の時に働いていたサラダ工場を彷彿とさせるので、ホントに痛かった。あの感じは、自分にとって絶望の象徴ですね。あの背景を見るだけで絶望できます。だからこそ、マイキーやストロベリー、レクシーやロニーの哀しみが伝わります。
 あと、ストロベリーのピアノ弾き語りは感動的でした。なんか、90年代のシンガーソングライターみたいなグッとくる感じがありましたね。フィオナ・アップル的な哀切な説得力を感じました。

 細かいギャグは面白かったです。特に、ジェットコースターのくだりや、ラストのレクシーの顔面どアップ3連発は爆笑でしたね。チ☆ポランニングはなぜか前観た日本映画『生きてるだけで、愛』を思い出しました。『生きてる〜』はつまらねぇ映画でしたけどね。
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