ラウぺ

レッド・ロケットのラウぺのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
4.0
トランプとヒラリーが大統領選を戦っていた2016年、ポルノ俳優だったマイキーは一文無しになってテキサスに戻ってきた。17年ぶりに妻のレキシ―と義母のリルの住む自宅に転がり込んだが、勿論歓迎されない。職に就こうにも前職が災いしてなかなか採用されず、大麻の販売元締めをしているレオンドリアを口説き落として売人になることにした。そんなとき、近所のドーナツ屋でバイトをしているストロベリーと出逢う・・・

口から出まかせでその場を取り繕い、自分をなんとかデカく見せたいだけマイキーのどうしようもない日常に、それを取り巻く周囲の人々もまたどいつもこいつもクズばかり。
マイキーは17年の“キャリア”でそのスジの賞に何度もノミネートされたとか、「あの女優はオレが育てた」とかどこまでホントかわからない武勇伝を隣に住む幼馴染のロニーに繰り返し話す。
あまり世間のことに明るくない様子のロニーはマイキーのデカい話をそれなりに信じているようで、ロス帰りのマイキーに一目置いている。
留守宅のレキシ―とリルの面倒を見ていたレオンドリアは葉っぱの卸をファミリービジネスとして生計を立てていて、売人にしてやったマイキーの様子をそれとなくチェックしているらしい。

お行儀のよい生活を送っている人たちにはこの底辺の猥雑でちょいワルな人々の様子が生理的に受け付けないところもあるかと思いますが、このどうしようもない人々の描写は徹底的なワルというわけでもなく、どことなく可笑しげで、あまり悲壮感はない。
監督の暖かい眼差し、というのとは少し違うかもしれませんが、こういう人たちが現実に居て、社会の底辺に居場所を作ってどうにか暮らしている様子をある種の生暖かさをもって描写していると感じます。
このどうしようもない底辺の感じは『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』でももっとシビアな感じで描写していましたが、監督が描きたい世界がどういうものかは非常に明確に伝わってきます。

ドーナツ屋でストロベリーをはじめて見たマイキーは歳が倍以上も離れているにも拘らず、一目惚れ。
あと3週間で18歳になるストロベリーはこんなおっさんのどこがいいのかと思うのですが、意外にもマイキーと仲良しになる。
ストロベリーの素性も母親と二人暮らしで普通の高校生のようでありながら、この映画で描かれるマイキーの周囲の人々とあまり変わらず、チョイ悪で大胆な感じ。
マイキーはストロベリーと街を出て再びポルノ業界で再起を図ろうと夢を見る・・・
テレビを点けているシーンで何度も登場するトランプの、あのキャッチフレーズがマイキーの再起と相似形で比喩されていることが窺われます。

こんな奴が売人で貯めたカネで若い娘をヒモ同然に再起のネタにしようとか、大丈夫なんか?と思いつつ展開を観続けることになるのですが、後半の展開はやはり『フロリダ・プロジェクト』を彷彿とさせるもの。
アホな奴にはアホな運命が相応しい結末を迎えるのか、それともアホなりの人生はこれからも続く・・・なのか。
エンディングは観てのお楽しみなわけですが、観ようによってはさまざまな解釈ができそうな玉虫色な感じがまた心地よいのでした。
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