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ニトラム/NITRAMのmarikabraunのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
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例えば無差別殺人事件のニュースが流れるたびに、犯人がそこに至るまでの経緯をつい考えてしまう。頭のいかれた奴だと片付けてしまえばそれまでだけど、そんな風に切り捨ててきた社会こそが人を無敵にさせていくのだろうし、かと言って会ったこともない彼らがどんな半生を送ってきたかを想像することだって、犯人の卒業アルバムが添えられた学生時代の印象や、ただ近所に住んでいるだけの赤の他人の勝手なインタビューと同じくらい無意味で、何も変えられないことだとも分かっている。
この映画では犯人を取り巻く環境、とりわけひとつの家族の肖像を淡々と見せられる。個人的には母親の態度がかなりきつかった。「普通」を押し付け、自分が愛せなかったありのままの息子を愛する女性と対面したときに滲み出る嫉妬。自分がわからない、と初めて感情を吐露するマーティンに投げ捨てた「あなたが何を言っているか分からない」という言葉。仮に愛があったとしても、それを見せられないどころか相手を絶望へと突き落とすのであれば、ないのと同じだ。ニトラムと呼ばれるだらしない身体の男性が、権威的な母親とイエスマンな父親、バランスの偏ったありふれた家庭で育ち、お世辞にもいい人間とは呼べないけれど悪魔でもない、自分とそう変わらない人間なのだと思い知らされる。引きこもって荒れた部屋が、何か目標を定めた途端に片付いていくのもリアルでぞっとした。
痛々しい、だけど目を背けられない。数えきれないifが散らばるなか、静かに着実に弾は込められていき、引き金はひかれる。では何が正解なのかと問われても、答えはない。共感も同情もしたくない。それでも考えることを辞めた時点で、本当に何もかもが終わりな気がする。
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