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インフル病みのペトロフ家のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

インフル病みのペトロフ家(2021年製作の映画)
3.3
アレクセイ・サリニコフの小説「インフル病みのペトロフ家とその周辺」の映画化。
インフルエンザで高熱となりながら街をさまよう主人公たちを通して、今世紀初頭の混沌として荒廃したロシア社会の状況を描く。
監督はキリル・セレブレンニコフ(2017年国家資金を横領した疑いで逮捕され、ほぼ2年間自宅軟禁されたが、保守的立場に反対して(同性愛者であることを公言し、LGBTQ支援の立場を取って)いるため、事件は政治的動機に基づいて捏造されたとみなされている。有罪判決を受けたが、2022年3月判決は取り消された)。
カンヌ国際映画祭フランス映画高等技術委員会賞受賞。
原題:Петровы в гриппе、
(英)Petrov's Flu (2021)

2004年のエカテリンブルグ。
インフルエンザが流行する中、高熱を出した(趣味で漫画を書いている)ペトロフ(セミョーン・セルジン)は、妄想と現実の狭間を往来する。
トロリーバスに乗り込むが、まるで狂人ばかりの世界のようだ。
ペトロフは、バスから降ろされ、目隠しをされ壁の前に並べられた共産党員たちを銃殺するのを手伝うよう求められ、ためらわず銃を撃つ。
友人のイーゴリ(ユーリー・コロコリニコフ)が現れ、霊柩車の中での酒盛りをし、死体を差し替えようとした後、知人の哲学者ヴィーチャ(アレクサンドル・イリイン)の家に押しかけ、さらにウォッカを飲む。
その後、作家志望の夢破れた友人セルゲイ(イワン・ドールン)に作品を託された上で、自殺を手伝うが、彼の家にガソリンを撒いて火をつけることで、友人と作品を燃やしてしまう。
一方、ペトロフの離婚した妻ペトロワ(チュルパン・ハマートワ)は、勤め先である図書館で男性と抱き合う妄想をし、図書館に来ていた男にイラっとしてその男を殴りに殴って血まみれにし、言う通りにしない息子の首を包丁で切る妄想を抱き、終いには、公園で男を包丁で刺殺する。
インフルエンザで高熱を出した息子がどうしても劇場のヨールカ祭り(新年を祝うお祭)に行きたがり、70年代製造されたアスピリンを飲ませ、会場に連れていくが、途中で亡くなってしまう幻覚を見る。
やがてペトロフは、自分が子どもだった時代(旧ソ連時代)のヨールカ祭りの記憶へと回帰し、子供のペトロフが、手を繋いだ雪娘に「あなたは本物?」と尋ねると、雪娘は「本物よ」と答える。
実はこの雪娘マリーナ( ユリア・ペレシルド)は、俳優志望の恋人とうまくいっておらず、彼の母親から出自のせいでよく思われず、家庭教師先の生徒と関係を持って子どもを身ごもっていた。彼女が母親に妊娠のことを電話で相談しようとしていたところを事情を知らないペトロフの母親が見て、彼女を対応の悪い職員だと思い彼女に悪態をついていた。
最後は、霊柩車の死体が生き返り、バスに乗り込むところで終わる。

「お前の生死は無意味だ。だが俺の自殺は正当性の証明だ」

「くそっ、絶対中絶よ、中絶!」

過去から現在にかけて3つの時間軸が交錯。現実なのかそれとも高熱による幻覚や妄想なのか分かりにくい。
ロシアで作品を発表するには、このような方法で、メッセージを込めるしかないのだろう。
読み込んで推測していく力、解釈する力が問われる。
今も、旧ソ連時代がよみがえりそうな(または旧ソ連時代と類似した)混沌とし危険をはらんだ時代だが、そんなの中でも人は生きていくし、生きていかなければならない。
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