三畳

かもめ食堂の三畳のレビュー・感想・評価

かもめ食堂(2005年製作の映画)
3.5
美容師さんや店員さんって、相槌がうまくて愛想が良くて、親しげにこっちの話を引き出してくれる。でも、彼ら自身の心はそこにない、という場合が多い。

私はしばしばリーサのように内面を吐露した後で、ちょっと不均衡を感じて切なくなる。

映画は、現実では表れてこない水面下の感情、その人が私と向かい合っていない1人でいるときの表情を見ることができる。

でも、この映画のサチエさんはあくまで他人のまま、店員さんのままで、私たち観客に対して営業トーク的な姿勢を感じた。達観的なセリフとか、ザリガニのおにぎりを試食しなかったところとか。

唯一明確に演出して見せたのは、満席になって良かった、うふふ、という気持ちだけ。

とはいえストーリー上の彼女は閉ざしてるわけではなく、初対面のミドリを家に泊めたりと心は開いてる。

ミドリの方が比較的求めているのに対しサチエはその都度それとなくかわしているように感じてしまうけど。

他人行儀なのは多分ディレクション。

日常ドラマに事件が欲しいわけでも、ゆったりした人物に感情的になってほしいわけでもない。機微を見せるのが映画だと思うだけ。
「人にはいろいろな事情がありますから」「人は変わっていくものですから」という言葉に集約されるように、何らかのいろいろが渦巻いているはずなのに。

ただしその馴れ合わない距離感を現実通りに演じる小林聡美は役者として巧みなんだろうな。
折り紙対戦する片桐はいりの表情が5秒間で4変化くらいしたのも良かった。
三畳

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