dm10forever

リング・ワンダリングのdm10foreverのネタバレレビュー・内容・結末

リング・ワンダリング(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

【異人たちとの冬】

まず「リング・ワンダリング」の意味が知りたくて、すかさずWiki教授に確認。
なんでも【輪形彷徨、環形彷徨】という意味で、判りやすく言うと「人が方向感覚を失い、無意識のうちに円を描くように同一地点を彷徨い(さまよい)歩くことをいう」・・・らしい。

なるほど。
この物語の構造にも納得がいったよ。

若干とっつき難いお話ではあるんだけど、何故か全編に流れる優しい雰囲気に癒されていくような不思議な映画。

過去から未来へ
未来から過去へ
決して交わることのない時間軸で互いに探す「大切なもの」
そして伝えたい想い。

いわゆる「タイムリープもの」といってもいいのかな?
恐らく、飼い犬のシロを探しに来たミドリさん・・・そういえばミドリさんを演じた阿部純子さんは、先週見た「はい、泳げません」でも幸薄めな女性を演じていて、丁度気になっていたところでしたが、こんなところでまたお会いするとは・・・運命ですか?

・・・それはさておき。
そのミドリさんとの出会いがトリガーとなって時間軸がずれてしまったような感じなのかな・・。
「一人だけ逆進して歩く橋」や「夜の神社の階段」など、他にもそれっぽいメタファーは沢山あったんだけど、決定的に何かが変わるような演出はなかったので、むしろグラデーション的にゆっくり「別次元」へ進んでいったような感じだろうか・・・。
でも、この辺の(ふんわり)とした感触も嫌いじゃなかったな。

今までの笠松将の印象って結構尖った役のイメージが強かったから、そのギャップで映像や物語の柔らかさが特に引き立ったように感じた。
きっとその時に感じた(ふんわり)もその影響なのかもしれない。

どこか短編映画のような粗さも残しつつ、それでいて時間がゆっくりと流れるような不思議な映像に、途中から深読みするのを放棄して、ただ見たままのイメージを受け取ることにした。

どうしても手に入れたくてもどうしようもないものが、過去の自分の行動から繋がって今の自分に返ってくる。
東京という町の「昔と今」
大空襲で何万という尊い命が奪われてからまだ80年弱しか経っていない。
歴史の教科書に載れば全て「過去」というわけじゃない。
まだその当時を生き抜いた人だって沢山生きている、そんな「昔と今」。

そしてその時間を繋いだシロという一匹の犬。

草介の描く漫画の中で、オオカミを「お犬様」と畏敬の念で崇める村人に対して、「そんな風に獣を崇めるからいつまでたっても貧乏なんだ」と主人公の銀三(長谷川初範)は吐き捨てるシーンがある。
あくまでもオオカミと対峙し続けることでしか自分の存在を証明できない孤独な男。

しかし、シロが繋いだ縁は頑なだった男の心にも光を照らしてくれた。
決して描き変えるようとしなかった部分ですら「お犬様=草介にとってのシロ」のお陰で大切なものに気付く銀三というラストに描き変えるまでに草介の心にも変化が現れていた。

どこか「異人たちとの夏」のような切なさもありながら、どちらかというと温かみを感じる内容で個人的には結構好きかな・・・。
長谷川初範さんの顔のしわがカッコよくて、やっぱりこの人はイケオジなんだよな~と変なところで納得。

ちょっと掴みどころがなくて、好き嫌いが分かれるかもしれないけど、僕は嫌いじゃないです。
dm10forever

dm10forever