MasaichiYaguchi

ヴィム・ヴェンダースプロデュース/ブルーノート・ストーリーのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.5
「BLUENOTE/ブルーノート」と言うと、年に数回行くジャズクラブ「BLUE NOTE TOKYO/ブルーノート東京」を思い浮かべてしまうが、このニューヨークに本店があるジャズクラブはブルーノート・レコードと直接的な関係は有していないらしい。
だが「ブルーノート」という名称は、ジャズファンにとってこの伝説的なレーベルとイメージが結び付いてしまう。
ヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を務め、このジャズレーベル創設の裏側に迫ったドキュメンタリーでは、創設者で、ジャズミュージシャンたちから親しみを込めて“ライオンと狼(ウルフ)”と呼ばれた2人のユダヤ系ドイツ人、アルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフの人となりを時代背景と共に浮き彫りにしていく。
ユダヤ系ドイツ人のアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフは、10代の頃に生まれ育ったベルリンの街で出会う。
2人には当時のアメリカ音楽が好きという共通点があり、すぐに親友になったが、1933年以降、ナチス・ドイツのユダヤ人への迫害が酷くなり、ライオンは先にアメリカに渡ってしまう。
その後、ウルフも意を決してニューヨークに渡り、ライオンと共に大好きなジャズのレコード会社を立ち上げて生計を立てようと邁進していく。
彼らがレーベル立ち上げた頃のアメリカは公民権運動以前、厳しい人種差別があった時代。
ジャズミュージシャンの殆どは黒人であり、ライオンとウルフの「ブルーノート」は、ミュージシャンと創設者、国も人種も違う彼らは差別に対する苦悩とジャズへの愛によって結びつき、喜びと悲しみを分かち合う“場”となっていく。
本作は、ジャズファンにとって伝説のレーベル誕生の背景、独自のレコーディングスタイルとサウンド形成の裏側を、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ソニー・ロリンズ、クインシー・ジョーンズ等名だたるジャズミュージシャンたちと、アルフレッド・ライオンの元妻である故ロレイン・ゴードンを始めとする創設者2人の周囲の人々による証言で紹介していく。
原題にある“It Must Schwing”(シュウィングさせて!)は、2人が最も大切にしていた「録音する楽曲がちゃんとスウィングしているか」ということであり、だからアルフレッド・ライオンが独特なドイツ訛りでミュージシャンに出すたった一つの指示の言葉。
人種、国籍、言葉を超えて、ジャズ愛に生きた2人にジャズファンの一人として敬意を覚えます。