りっく

私を信じて -リサ・マクヴェイの誘拐-のりっくのレビュー・感想・評価

3.8
24時間営業のドーナツ屋でバイトする少女リサ。冒頭の客との僅かなやり取りで、この少女の地頭の良さ、逆に言うと男たちに対していかに機転を効かせるかを的確に描写するからこそ、実話に基づくと前置きはありつつも、心も体も傷つきながら、自分の置かれた状況や相手を客観視していく特殊能力ギリギリのリアリティを担保することに成功している。

テレビ映画ということもあり、誘拐されてから性的虐待を受ける過度な描写はないものの、粘着質な男と付きっきりでいる恐怖と、その状況で相手を褒め諭し心を開かせるさまはある種の心理戦としても見ごたえがある。また極限の状況で見る側もハラハラさせておきながらも、目隠しの隙間から外を覗き、犯人の顔を触り、トイレで指紋をつけ、車内で指からわざと血を出すといった彼女の不可解な行動が、後に連続殺人犯だったと判明する男を手繰り寄せる手がかりとなっていく展開は、犯罪捜査ものとして純粋に面白い。

また誘拐されて性的虐待を受け続ける序盤だけでも地獄だが、本作は時折彼女の過去をフラッシュバックさせながら、この地獄から抜け出しても、帰る場所であるはずの過程がまた別の地獄であることを明らかにする。単なる家出の言い訳のための作り話だと、別居中の母親も、同居中の祖母と凶暴な男も、誰も取り合ってくれない。そんな状況でも、自分を信じてくれる人を彼女も信じ、事件の真相を明かすとともに自分の居場所や未来をも勝ち取っていく。そんな実話に基づいた「信頼」の物語に、胸が熱くなる。カナダのテレビ賞を多数受賞したのも納得のクオリティだ。
https://www.shimacinema.com/2021/06/15/believe-me-the-abduction-of-lisa-mcvey/
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