カルダモン

スパークス・ブラザーズのカルダモンのレビュー・感想・評価

スパークス・ブラザーズ(2021年製作の映画)
4.0
特別講師エドガーライトに学ぶスパークス50年史。数々の著名アーティストによるラブメッセージや過去映像と共に謎めいたUSロックユニット、スパークス兄弟に迫る。

結論から言ってしまえばこの映画を観てもスパークスのことはよく分からない。よく分かられてたまるか。というバンド側の姿勢も大いにあるだろうが、型にハマらない本流からズラしまくるということを旨に50年やってる兄弟なので、わからなくてもまったく問題がない。むしろ、わからないから知りたい。わからないから楽しい。それを50年以上保ってるという驚異的な事実が素晴らしい。ということがわかる。

スパークスってイギリスのバンドだと思ってたけどアメリカなんだ!ってアレックス・カプラノスが言ってたけど、私も最初にスパークスを聴いた時はアメリカだと思わなかったので、他国でも感覚は一緒なんだってのが面白かった。まさかの生まれも育ちも西海岸LAで、しかも海のすぐそばに住んでいたなんて。本人たちはそんなLAが肌に合わなくてUK音楽にどハマりしていたと言うから、ある意味でその土地が産んだ音楽という見方もできるかも。

映画音楽に影響を受けた少年期に始まり、ティムバートン監督による『サイキック少女舞』、ジャック・タチとの映画企画が頓挫。そこからアルバムのネタとして温めていた『アネット』の原案をレオスカラックスに手渡して映画化に至るという流れ。これだけで歴史の一片としていくらでも掘れそう。

前半はまあまあ退屈。苦節を重ねて表舞台から消えた6年後、ようやく『麗しのマイウェイ』で再起動して以降、怒涛の活動歴にワクワクした。ようやく時代と噛み合い始めた、、のか?というような絶妙な距離感。時代とピッタリ合致するでもなく常に半歩ずれた位置にいるという当時の感覚が伝わってくる。

そして今現在。
『アネット』が公開され、新型iPad AirのCM曲に『This town』が抜擢され、ワールドツアー中で夏にはソニックマニアでの来日公演もあるというスパークスイヤー。
時代からはみ出たことをやりたいスパークスブラザーズは今の受け入れられ方をどのように感じているのだろう。私には彼らの姿はなんだか嬉しそうに見える。ようやく巡ってきた。時代のアンチではなく、時代を手招きしてるような。どこに連れてかれるのか、どこにいるのか、安心できない、油断のならない音楽。おじいちゃんになっても探求してる姿がとっても素敵だった。
もっともっと煙に巻いて欲しい。